「拒否権は、あります」
気が付くと、新庄は見知らぬ場所にいた。
辺りを見回せば、どこかの大聖堂の中のようだった。
新庄がそのように感じたのは、建物が白い石のようなものでできていたからである。そして、厳かな雰囲気だったからだ。
これでもしも木製の建物の中にいたのなら、神社か寺を思い浮かべただろう。
「貴方達には、私の世界に巣くうモンスターを退治してもらいたいのです。
そのための力は用意しましょう。望むようなものそのままとはいきませんが、出来るだけの力を与えます。戦うための環境も、しばらくは大丈夫なように整えます。
拒否権は、あります。こちらの要求に応えられないと言うのであれば、輪廻の輪へ還しますし、断ろうがペナルティを科すこともありません」
気が付いた新庄達が何か動き出す前に、声が聞こえてきた。
何処からともなく聞こえてくる、男とも女とも分からない、不思議な声だ。
声は新庄達にひとつの選択を求めてきた。
そのまま死ぬか、異世界に行きモンスターと戦うかの選択だ。
死ぬ、というのは恐ろしいことである。
しかし、モンスターと戦うことだって恐ろしい。
どちらがマシなのかは、人によるだろう。
「考える時間を与えます。近くにご友人がいるなら、相談してください」
声は最後に一人で考えるのではなく、周りと話し合うように言って、聞こえなくなった。
「新庄さん! ああ、ここにいたんですね」
「新庄課長。この状況はよくわからないのですが、意見交換をしませんか?」
新庄のところに、仲の良い同僚や部下が集まる。
年の離れた部下たちは別なグループを作っているが、同年代はだいたい新庄のところに来た。
そこで、考えられる現状について話し合い、全員が正しい理解をできるように努める。
「私には無理ですね。大人しく生まれ変わることにします」
「私も……。もう、いい歳ですからね。化け物と戦っても、食い殺されるだけでしょう。
異世界ですか? そちらに行かなくてもペナルティが無いのなら、辞めておきます」
新庄のグループは、新庄以外は「異世界に行かない」と決めたようだ。
行っても殺されるだけだろう、力を貰えるといっても使いこなせるか分からない。そもそも、望んだだけの力が得られるわけではない。
ならば、大人しく転生したほうがマシだと、彼らは選択した。
仲の良い人がいなくなってしまう。
行かないと選択した者達は、あっさりと姿を消していく。
周りの人達を見ればだいたいがグループを作っているし、その年代は新庄よりも一回り下だ。
一人残った新庄は、今さら他のグループに入ることなく、異世界に行くのは一人でどうにかすると決めた。