「特濃パイタン激盛りヤワ一丁アガリ!!」
「特濃パイタン激盛りヤワ一丁アガリ!!」
『火野 充』は、今年で30歳になる人気のラーメン屋だ。
異世界にラーメンを広めてやろうと考えてやって来た転移者である。
チートがどうとか、ギフト能力がどうとかなど全く考えず、こちらに来てからはひたすらラーメンを作り続けるこの猛者は、同郷の賛同者を味方に付け、ひたすらラーメンを作り続けていた。
異世界でラーメンを作る事は可能なのか? 店を持つことはできるのか?
ラーメンの材料を現地のものに置き換えるだけでなく、それを安定して購入する。
それは流通の発達していない異世界ではほとんど不可能と言っていいぐらい、難しい。
そもそも食材があまり生産されていないのだから、金があっても手に入らないのが普通なのだ。
そしてラーメンを作れたとしても、料理店を構える事すら、中世ではありえない。
レストラン、外食文化はフランス革命後の話なのだ。ラーメンに限らず、飯屋そのものに馴染みが無い。
また、庶民の食事が制限されている国も多く、ラーメンの材料、特にチャーシューのような肉類を庶民が食べてはいけないと法律に定めている事もある。贅沢な、手間暇かけた肉料理は貴族だけの物だと彼らは言うのだ。それが当たり前、常識であると信じて疑わない。
斯様にラーメン屋を営む事は難しかった。
それら全ての難題を一つ一つクリアして、今がある。
ラーメンを広めてやろうと野望を抱いた男は、「実現が難しいから」、その程度の理由で諦める事をしなかった。
「やりたいからやる」の精神で、村ひとつを使い材料の生産体制を整え、王宮に殴り込んで法改正を行い、小さな店一つを得た。
「今日はあと一人で仕舞いだよ!」
「マジかー!?」
最初は日本人御用達と言うか日本人しか来なかったが、徐々に異世界人にも認知され、受け入れられていく。
中にはスープを煮込む時に出る悪臭に苦情を言われたり、味が合わないと代金を踏み倒そうとする者もいたが、それらも時間をかけてクリアしていった。
毎日売り切れにはなるが、まだ順風満帆とは言えず、問題の種は尽きない。
それでも、ラーメンが好きだからと、ラーメンを作り続ける。
「ごちそうさん! 旨かったぜ、店主!」
喜んでくれる客がいる限り。




