「試した。怖かったけど、慣れれば便利だろうな」
加倉井が数年ぶりの勉強に苦戦している間も、荻たちは自分たちの将来に向けた準備をしている。
まだ数年の猶予はあるが、先に受け入れ態勢を整えたりする事は大切だ。
新庄やオズワルドと相談した場所にオアシスと住居をいくつかを作ってもらい、奴隷を雇い入れ、ついでに作ってもらった畑で農業を始めさせている。
「しばらくは私の所から代官相当の人を入れておくが、いずれ御役御免となるのだから、あまり優秀な者を置く事はできない。
あまり期待はしないようにしてくれ」
「うっす。ありがとうございます」
このオアシスと農地は国の方に報告済み。
国としても、新庄が国内の開発をしてくれるならば諸手を上げて歓迎する。
砂漠ばかりの土地を抱える国は、僅かな面積でも農地は大切なのだ。
何のコストもかけずに農地が増えると言われれば、否など無い。
オアシスと農地だけでなく、ギフト能力持ちが10人ほど国民となるのなら、貴族の爵位を一つ増やして渡すぐらい安いものだ。
税収が増えるし、交易路が開拓されるのだから、むしろ貰うばかりである。
だからという訳ではないが、このオアシスが本当にやって行けるか、どの程度の人の受け入れができるかを計るための仮設置期間の管理は、国が請け負っている。
村の管理をする代官は、王都の方には余剰人員が居るので、そこから適当な人間を送り込んでいる。
砂漠の国は長い間領土が増えていないため、どうしても貴族の身内は余ってしまうのだ。
「畜産は無理ってのがきついなー」
「安定した肉の供給は、モンスターの肉を狩りにいくしかないって訳な」
「狩場はそこまで遠くないけど、やっぱそのうち自前で用意したいよな」
なお、小さな村を想定しているからではないが、農地の狭さから、畜産はできない様である。
畜産には相応の緑地や森が必要であり、ここは砂漠のため、動物を飼う余裕が無いのだ。
新庄に無理を言えば可能だろうが。
「ここに作ったオアシス複数がそのうち緑地を増やすだろうから、それまでは用意した農地で頑張るように」
これ以上、村に手を入れるつもりは無いと、釘を刺されている。
新庄が作る農地は、どこまで安定してくれるか分からない部分が多い。
今は大丈夫だが、この農地も時間が経てば砂漠に吞まれる可能性が有る。
そういった見極めをしつつ、どこまで農地を広げられるかを確認していく方が先なのだ。
家畜を養う緑地を作るのは、どう考えてもまだ早かった。
なお、荻たちの村は、新庄のいるバハムートオアシスと王都の間にあるのだが、そこより3日ほど内陸に寄った場所にある。
そのあたりが一番人が踏み込みにくい場所で、村があると助かるのだと、オズワルドが思っていた土地になる。
「そういやぁ、トロッコは試したか?」
「試した。怖かったけど、慣れれば便利だろうな」
そして、村には新庄がちょっとした贈り物をしていた。
レールを使って移動するための、トロッコが設置されているのである。




