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砂漠の国の、引きこもり  作者: 猫の人
引きこもりを許さない世界へ
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「私、ああいう仕事、出来る気がしないのです……!!」

 女子トークにおける愚痴の吐き出しは、半分本音ではあるが、もう半分はただの雑談である。

 そこに大した意味はなく、ちょっと共感出来そうな話題を振り、「だよねー」と笑い合うためのツールでしかない。


 嫌な事だったというのは確かでも、愚痴を言って何が変わるかと言えば、自分の心が軽くなるだけで、現実が変わるわけではない。

 それでもこういった話をするだけで心が軽くなるし、目の前の相手と仲良くなれるから良いのである。

 溜め込むよりも吐き出してスッキリするのが、彼女たちの人生を楽しむコツである。



 羽衣とは2日ほど一緒に遊び、加倉井はオアシスへ帰る。


 帰る間に、加倉井は広がった視野と軽くなった心で自分を顧みた。


「私のやりたい事って、なんでしょう?」


 将来を考えてみたら、何も答えが出なかった。

 思った以上に自分が空っぽだったことに加倉井は焦り、何かないかと考えてみるが。


「やりたい事って、将来の夢って、なんなんですかね?」


 本当に何も思い浮かばないのだ。

 将来の自分、その姿が全く見えてこない。



 こんな時はどうすればいいんだろうと頭を抱えそうになった加倉井だが、ふと新庄との会話を思い出す。


「やりたい事じゃなくて、やりたくない事を考えればいいのです」


 その昔、新庄は「やりたい事ではなく、やれる事をやる」といった話をしていた。

 その応用で、「こんな将来は嫌だ」という想像をして、そうならないようにするべき事をまずしておこうと考えた。

 その間に、やりたい事を探せばいいのである。



 そうやって考える視点を変えてみると、自分の進む方向が徐々に定まっていく。


「神谷さんのような、“出来る女”がいいのですよ。

 でも、出来るだけ長くギフト能力は維持した方が良いですよね」


 加倉井が最初に嫌だと思ったのは、娼婦などの職である。

 娼婦が汚らわしいというほど潔癖ではないが、男を相手にする職業なので、男嫌いの気がある加倉井には絶対やりたくない仕事なのだ。

 もっとも、娼婦などが普通の女性がやりたいと思う職業でないのは間違いない。つまり加倉井に限った話ではない。


 そして、お嫁さん、主婦も選択肢から除外した。

 こちらに来た当初、心細さから新庄の嫁になる事を思いついた加倉井ではあったが、冷静になって振り返ると、それもあり得ない話であった。今の彼女の中で、新庄という存在は父親枠で落ち着いている。

 そしてその新庄よりも付き合いたい、結婚したい相手は見つかっていない。もしも可能であれば、現在は新庄と結婚するのが加倉井にとって最善である。

 “結婚などあり得ない”新庄が最善と思ってしまう程度に、加倉井の中で結婚の優先順位は低かった。


 他にも、冒険者はそこまで長く続けたくないだとか、色々とやりたくない事を思い浮かべていくと、逆説的に自分の進むべき道が見えてくる。

 そうして思い浮かんだのが、神谷のような“働く女性”であった。


 現在の神谷はオズワルドのフォーン商会で番頭のような立場で働いている。

 日本の会社で言えば、社長のようなものだ。正式に社長ではないので、神谷の立場は副社長のようなものだろうか。

 そしてオズワルドはその上の代表取締役と社長の兼任となる。

 


 細かい事は横に置き、理想の一つを具体的に思い浮かべた加倉井は、そこで気が付いてしまう。


「私、ああいう仕事、出来る気がしないのです……!!」


 加倉井真姫菜、18歳。

 中学を異世界転移で強制的に退学、のちにモンスターと血みどろの戦いをする冒険者になる。

 簿記を始め、各種資格の類は一切ない。


 加倉井の理想は、はるか遠い理想郷であった。

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[一言] だめだめだめソコで諦めたら
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