「そこは断言してほしかったです……」
しばらくは新庄相手によそよそしい態度だった加倉井だが、数日もすれば、それも収まる。新庄は特に何か意識した様子がなく、とても落ち着いた様子であったからだ。
男の新庄でも、恥ずかしがる加倉井の気持ちは分からないでもないし、それで態度が悪くなっても、それを込みで世話をしたのだ。それに、ここに来た当初の、警戒心を隠しもしない加倉井を見ているので今さらである。
基本的に、新庄は子供に甘いのだ。
その新庄は、加倉井が人を殺してしまったことを、何となくで察した。
新庄自身、この世界に来たときから、人を殺す覚悟をしていた。なので、加倉井が人を殺したからといって迫害などする気はないし、態度を変えることもしない。
どちらかと言えば、むしろ優しくするべきかと考えてしまう程度である。
これが加倉井以外の、別の人間であればそこまでは考えない。
多少の付き合いで人の全てが分かるほど新庄は自惚れてはいないが、加倉井が理由もなく暴力を振るう人間でないと確信しており、何か事情があり、日本人としては理解できる内容だったのだろうと思っているからだ。
理由もなく悪い事をするような子ではない。優しい子だ。
新庄は加倉井のことを、そのように信じていた。
「魚で出汁をとってみたんだ。これならそこそこうどんっぽい味になっているはず、だ」
「そこは断言してほしかったです……」
風呂に入り、ゆっくり寝て、ちゃんと食べる。
ここで「美味しいものを食べる」と言えない新庄は複雑な心境ではあるが、それでもできるだけいつも通りか、やや明るい顔で加倉井の面倒を見る。
うどん(?)を渡された加倉井は、それを食べてみて内心では微妙、日本で食べたものと比べてそこまで美味しくないと思うものの、それでも笑顔を新庄に向ける。
新庄の気遣いは嬉しいし、味はここからもっと美味しくしていけばいい。そう思ったからだ。
自分に優しくしてくれる新庄に、加倉井はより強く父親を重ねる。
そうして、依存していく。
そろそろ、渡された食料が尽きる。
新庄が町に行くまで、あと少し。




