「そう、なのですよね。戦うだけが人生じゃないのですよ」
「それにしても、家の中は涼しいです」
「いいでしょ。瞳が屋上に魔法で出した氷を置いているの」
「あ、そっちは氷を出すのですね」
羽衣のパートナー、『天堂 瞳』。
彼女は魔法使い系統のギフト能力者で、特に氷系を得意とする。
暑いときは氷屋として動く事もあり、彼女はこれでかなり荒稼ぎしている。
とは言っても、他にも同じ事をしている仲間もいて、大概客の取り合いになるのが常だ。
稼げるかどうかは運であり、荒稼ぎできたと言っても最近はたまたま同業者が仕事をした日が少なかっただけである。
相手の財布の都合もあるし、普段はそこまで稼げないお仕事なのだ。
「それと、最近は扇風機もあるわよ」
「え!? ホントですか?」
「オアシスの生活も快適だったけど、町の生活もなかなか良いでしょ」
オアシスでは水を自由に使えるため、居住区に水路を走らせ、打ち水のような効果で涼を取っている。
特に暑い日は氷も使うが、普段はこれで十分なのだ。
そんな加倉井の、あまりに弱い反応に、これならどうだとばかりに、羽衣は扇風機を持ってきた。
それは個人宅で使うような、小さい扇風機である。
デザインは日本の物をそのまま流用しており、オリジナリティは無いが、懐かしいと思える外観だった。
日本の物との差異を比べるなら、速度制御がボタン式ではなくスイッチ式である事と、電源ケーブルが無い事だろう。
「へー。でも、これはどうやって動いてますか? 電気じゃないですよね?」
「電気よ。でも、もっと言えば、魔石の魔力で動いているの。凄いでしょ」
「凄いのですよ! 新庄さんも、これは作れなさそうですよ!」
「ま、私が作った訳じゃないけどさ。私らも新庄さんに負けてばかりはいられないわけよ」
この扇風機は、こちらの転移者たちが色々と試行錯誤して作り上げたものだ。
モーターの仕組みは単純なので、ある程度の電気知識があれば、効率は横に置くとして、製作も可能である。
しかし動力に魔石を使うのは彼らの開発した独自技術で、こちらでは一般的なものと言えない。
魔石から魔力を取り出し、ちょうどいい出力にするため、彼らはかなりの苦労をしている。何人もの転移者が頭を捻り、知恵を出し合い、多くの失敗を重ねつつ成し遂げたのだ。
人数の多い彼らだからこそ、開発できたしなと言えるだろう。
「実際、これを作る事で生活費もずいぶん楽になったのよ。
これ一本で食っていけるって程じゃないけどさ、何人かは、こういうのを開発して生きていくみたい。
ギフト能力を捨ててでも、ね」
この技術を開発した転移者たちは、こういったものを作って生きていくための道筋を整えた。
町の商人とも関り、生産から販売までの一括管理を自分たちで出来るようにと動いている。
それこそ、もう冒険者を引退して、ギフト能力を捨ててしまうほどに、その道に嵌ってしまっているのだ。
戦い続ける事に疲れた者は、そうやって第二の人生を歩み始めている。
「そう、なのですよね。戦うだけが人生じゃないのですよ」
それを聞いた加倉井は、ギフト能力に拠らない生き方をしている人がこちらにもいた事を知り、ショックを受ける。
このまま戦える年齢のうちは戦っていればいいと考えていた加倉井にとって、それは青天の霹靂であった。
ちゃんと考えれば、戦わずに生きていく人生もあった。
神谷のようにギフト能力をはく奪されるのではなく、自分の意志で捨てる人も、世の中にはいる。
モンスターを倒すように言われて異世界に来たため、そうするのが最善だと思い込んでいた。
戦わなくてもいい。そんな当たり前の事を思い出し、加倉井は自分の狭い視野が、一気に広がっていくのを感じた。




