「他にも数ヶ所、同じように生え始めていたりする。湖を作った、プラスの影響だよ」
普通の植物には、環境調整能力というものがある。
植物は自分に適した環境を自分で作り上げようとするのだ。
普通ならその能力は微々たるものだが、新庄のエンチャント肥料で育ったマングローブは違う。
桁外れの環境調整能力で、周囲の気温、水温を下げていた。
「……夜には、絶対に近寄りたくないのです」
「同感。これは怒られても仕方がねーよ、新庄さん」
塩が大量についた葉っぱは、まるで氷に覆われたようにも見える。
そこから「アイスリーフ」などとも言われるのだが、このマングローブは夜になると、本当に氷で葉っぱの表面が覆われていたりする。文字通りの「アイスリーフ」だ。
そして湖面は、完全に凍っていた。
それを見た加倉井と荻たちは頭が痛いといった顔をして、新庄に視線を向けた。
加倉井にきっちり怒られた新庄は、申し訳ないと思いつつも、面白い結果になったとばかりにマングローブをキラキラした視線で見ていた。
新庄に反省が足りていないと、加倉井の頭に血管が浮かぶ。
「ここまでしなくても良かったですよね? 良かったですよね?
調整をするにしても、もっとゆっくりと、時間をかけて少しずつやれば良かったんですよ!!」
「そうそう。話、聞いただけだと、そこまで慌てなくても良かったんじゃねって思うんだけど。別にさぁ、普通のマングローブじゃダメだったんかな?」
普段は新庄の味方をする事が多い荻は、今回は叱る役の加倉井に珍しく同調した。
「この辺は砂漠だから大丈夫だけど、鳥とかが来て種を運ぶかもしれないっしょ。屋外でこれは、迂闊過ぎじゃね?」
「そこは、大丈夫。エンチャント肥料が無い場合は、種でも挿し木でも普通の樹に戻るから。そこは実験済みだって。じゃないと、さすがにこんな事はできないよ」
「ありゃ? そうなの?」
「そうそう」
荻が気にしたのは、このマングローブが拡散する事だ。
下手な場所に根付けば、悪影響を引き起こすとしか思えない。
現状すら危ういと思っていた。
しかし、新庄は拡散しないと太鼓判を押す。
大切なのは肥料だと言って、実証済みであると安全性を保証した。
「それと、王様の方は大丈夫なのです? これが知られれば、新庄さんが狙われるかもしれないのです」
「そっちも、もう話してあったりするんだな。エンチャント肥料やエンチャント餌の事がバレたとしても、今ならもう大丈夫なんだ。
これは羽衣とか他の所にも流した情報だし、もう知られたところで大事にはならないよ」
「……絶対に、軽く見過ぎなのです。その程度で収まるはずが無いのですよ」
そしてエンチャントの裏技も、周囲に教えたと胸を張る新庄。
やり方を知ったところで出来る人間は貴重なままだと言いたい加倉井だが、砂漠の国が暴走して新庄を捕まえようとする危険性は低いだろうと、少しだけ剣呑な雰囲気を収めた。
新庄としては、知られたところで特に何か不都合があるわけではないので、バラして大っぴらに動けることを優先しただけである。
秘密を守るためにコソコソするより、知られても自由に動ける方が有意義であると考えたのだ。
「下手すると、ここから砂漠が消えて無くなる未来もありうるわけかー。
さすがに俺らが死んだ後の話だろうけど」
「この辺りだけなら、わりと早いかもよ? 俺はともかく、荻君たちはまだ生きてるんじゃないかな。
ほら、あっちを見なよ」
何処か諦めの境地になった荻がぼやく。
そこに、新庄はここ数日の間の変化を見て欲しくて、砂漠の一点を指さした。
その指の先には、小さなサボテンが生えている。
「あのサボテン、最近になって生えてきたんだよ。湖の水が蒸発して、周囲の湿度が上がったからだろうね。ああやって、サボテンの種が芽吹きだしたんだ。
他にも数ヶ所、同じように生え始めていたりする。湖を作った、プラスの影響だよ」
新庄はそのサボテンを、自分のやった事の結果だと言い切った。
実際、ここ数日は晴れが続いているので、それ以外の理由でサボテンが芽吹く事は無いと思われる。
「植物が頻繫に生えるようなら、周囲の環境は確実に改善するよ。
乾燥に強い植物から、乾燥に弱い植物が混じって、緑化されていく。先が楽しみだとは思わないか?
俺は楽しそうだと思うよ」
加倉井は、静かに生きたい。
荻たちは美味い飯と快適な環境があればいい。
どちらも、今の状態から大きな変化を望んでいない。
しかし新庄は、これまで静かに生きていたにもかかわらず、あえてそれを打ち壊すような暴挙に出た。
周囲の環境を一変させてまで、砂漠を変えていく。
新庄はこれから先に何が起きるか全部分かっているようで、実は何も分かっていないような笑顔を浮かべていた。




