「自重していたんですか!? あれで!?」
海からオアシスまでの距離は、直線で40㎞ほどある。
地上や地下に水路を引いたとしても、まず海水は流れ込んでこないだろう距離だ。
ただ、新庄には勝算があるため、全く不可能な事を言っているというつもりが無い。
「海水が流れ込んでくる必要は無いんだよ。要は、間に海水があればいいんだ。正しく循環してくれるかどうかは、後で考える事かな?」
新庄は地下に水路を引いたら、そこに自分が海水を運び、流し込むつもりであった。
流れはおそらくも何もそのままではできないだろう。対流、循環には向かないと言うより、出来ない位置関係だからだ。
ただ、水がある事と、その水で魚が生きていけるようでさえあれば、魚はやって来るという甘い考えで計画を立てている。
「水質の保全には水草とかを使う予定だよ。あとは海水に対応させたヒカリゴケで光源を作ったり、色々と盛り込んでみようと思っているんだ。
使う水路は、ブランチマイニングで作った坑道の一つを使う予定なんだ」
ニコニコと構想を語る新庄だが、「ブランチマイニング」という言葉を使った時、一瞬だけ目から光が消えた。
「ブランチマイニング」とは、クラフトゲームの用語で、鉱石を探すときの、穴の掘り方である。
ゲームでは地下に降りる縦穴を掘って地下に行き、そこを起点に真っ直ぐ掘り進めて鉱石を探した後、その少し横を平行に穴を掘っていく。
やみくもに穴を掘るよりも鉱石を発見する可能性が高く、この手のクラフトゲームでは序盤における基本行動の一つと言われている。
実際にそういった事をやった新庄は、ゲームと違ってなかなか見つからない鉄鉱石を求め、延々と穴掘りをしている。
何年も地下を掘り進めた結果、海水をオアシスまで引っ張るという計画を思いつくほど、穴を掘っていたのである。
その穴掘りを思い出した新庄は、時々「自分は本当に前に進んでいるのだろうか?」と考えてしまう事もあり、遠い目をしてしまったのだ。
人間、努力しても結果が出ないときは、自分の行動に疑問を持つものであった。
新庄の話を聞いた加倉井は、それが成功するのか失敗するのか分からなかったが、新庄がやりたいのだからやらせておけばいいと、そんな投げやりな考えを持った。
自分たちに何か迷惑がかかるわけではないし、新庄が何か大きな不始末をするとも思えなかった。
その程度に新庄を信用していたため、「大丈夫だろう」と軽く考えた。
「海のお魚がこっちで獲れれば助かるのです」
「そうそう。魚が棲み付くように小さめの湖も作ってみたいんだよね。小さいと言っても今のオアシスの数倍の大きさを予定しているかな。
あとは塩分濃度が高くなりすぎない様に、時々雨とかで真水が足されるようにもするかな? それとも、塩分濃度を保つように、海水が補充されるシステムがあった方が良いのかな? 塩も作れるようになると助かるんだけど、どうなるだろう。
まぁ、やってみてから様子を見て調整するしかないと思うけど、気分転換になるからね。今から楽しみだよ」
「はい? オアシスの数倍です?」
「国王にも許可を取ったし、少し目立っても構わないって言われているし。うん、これまでみたいに自重せず、派手なものを作ってみようかな」
「自重していたんですか!? あれで!?」
ただ、酔った勢いからか、新庄の発言がだんだんと怪しくなる。
特に、「自重していた」という部分に加倉井は大きく反応した。
加倉井の視点では、新庄はかなりはっちゃけていたので、あれが自重していた人間のやる事なのかと酔いが醒めるほど驚いていた。
地下の魔法植物、エンチャント餌を使ったドーピング、トンデモ防衛兵器群。
自重しなかったら、どこまでやらかすのかと、戦々恐々とする。
「楽しみだねぇ」
加倉井は全然楽しみではなかった。
海水を引っ張って作る湖というが、そこに何が仕込まれるのかと思い、新庄を無言でじっと見つめるのだった。




