「海の魚をここまで引っ張れたら楽しそうだって、それだけなんだよ」」
戦争への協力、大砲の回収を終えた新庄はオアシスに戻ってきた。
海の中では一仕事するついでに色々と回収していたので、新庄は機嫌が良い。
「お帰りなさい。思ったよりも早かったですね」
「ただいま。向こうの人が、思った以上に優秀だったからね。一日で終わったんだよ」
新庄の留守を預かっていた加倉井は、新庄の帰りが早かった事に微笑みを浮かべる。
お互いに声を掛け合い、新庄は上機嫌なまま自分の家へと入っていった。
新庄が帰ってきたという事で、加倉井たちは新庄を労うように、少し豪華な食事を、みんなで食べるようにした。
「帰ってきたときも思ったんですけど。新庄さん、凄く機嫌が良いですね?」
「いろんな物が手に入ったんだよ。あちらの要求は大砲だけだったからね。沈んだ船の残骸は要らなかったらしい。
船員はいないけど、艦隊を組める程度に船が手に入ったんだ。大きめの一隻は修理の素材にしたけど、大小合わせて30隻はある。1隻あげようか?」
「……船員付きなら、欲しいです。船だけ貰っても、動かせないのですよ」
「それは残念。手漕ぎのボートもあるけど、それぐらいなら船員も要らないけど」
「貰っても仕方がないのですよ。海に浮かべておくだけで管理費が要るのですよ。お金がもったいないのです」
新庄は船と、そこに積まれていた荷物のうち大砲関連以外を自分の物にしている。
要らない船の一部は国にでも寄贈してしまおうと考え、半分は王都に置いてきたが、それでもまだ30隻も手元に置いていた。そのほとんども、シドニーやオズワルドに渡す予定である。
新庄は自分の気に入った3隻を除き、他は手放すつもりでいる。
残した船をただの木材とするには惜しいため、どう使おうかと思案している。
船を魔導書のストレージにいつまでも入れておくのは容量の無駄なので、シドニーやオズワルドに渡さない分は、暫く砂漠の地下に隠される事だろう。
用途があって手に入れた訳ではないので、船の使い道は特に無かった。
「これが終わったら、荻君たちとも話をするけど、ここまで海水を引っ張ろうと思うんだよ」
宴もたけなわ。
全員の腹が満たされ、落ち着き始めたところで、新庄は次の予定を口にした。
「海水を、ここまでです? え、40キロはあるのですよ? 途中で……ああ、地下を使うのです? でも勾配とかは?」
日本なら未成年だが、こちらでは合法。酒に軽く酔った加倉井が、新庄の考えを聞いて戸惑う。
加倉井は新庄の言葉が上手く理解できず、何を言われた、何をしようとしているのかを考えるが、混乱している。
「深く考えなくても良いよ。上手くいくかどうかもわからない計画だからね」
新庄の言葉は、実現性の低さから理解しにくい。
酔っている事もあり、混乱している加倉井に新庄は笑って言う。
「海の魚をここまで引っ張れたら楽しそうだって、それだけなんだよ」




