「……餌がいっぱいで、魚たちも喜んでいるみたいだな」
水の中に潜ると、視界がクリアになる。
暗視によって遠くまで見通せるとは言っても、視力が良くなるわけではないので、限界がある。
暗視は光を増幅しているわけではないらしく、望遠鏡も意味を成さないので、目視で確認できるのは自分の目に映る景色までである。
望遠鏡を暗視対応にしてみたいとは思うものの、暗視がどのような原理で視界を確保しているのか分からないため、実現は難しそうであった。
それに、海底の地形はなだらかではなかった。
そのほとんどが岩場で、一番深い所まで降りると辺りが見渡せなくなる。
新庄は適当に、やや高めにある岩を足場にして視界を確保した。
そうして周囲を見渡すが、船の残骸らしきものは影も形も見えてこない。
「浮島の向きがこっちからだから、こっちに行けばいいわけか」
新庄は軽く周囲を見回し、特に目を引く物が無い事を確認すると、ほぼ真上にある浮島を基準に進む方角を決めて移動する。
浮島の裏側には矢印が描かれており、それを使って方角が分かるようにしてあったのだ。
方位磁石で方角を確認してもいいのだが、水中で取りだせば壊れてしまう危険性がある。
直せないわけではないが、無駄に手間をかけるよりも、新庄は分かりやすい簡単な手段を選択した。
全力で1時間も移動すれば、10㎞は進むことができる。
マラソンランナーのトップレベルが1時間で20㎞ぐらい陸を走れることを考えるとその半分しかないが、水中であることを考えればかなり早い。
その移動速度はギフト能力の恩恵とエンチャントのおかげである。
体力の回復速度が強化されているので、こういった無茶ができるのだ。
泳ぎの素人でも、これだけの移動距離を稼げる。
「お、あった」
そうして移動を続けると、遠くに船らしきものがあるのが見えた。
思った以上に早く船が見つかった事に気を良くした新庄は、移動する足を速める。
近づくついでに、海底を離れ体を少し浮かせると、おびただしい量の船の残骸が沈んでいるのが分かった。
ついでに、一緒に沈んだ死体をついばむ魚たちも。
「……餌がいっぱいで、魚たちも喜んでいるみたいだな」
動物の死体が別の動物の餌になるのは、自然の摂理である。
ただ、もう死んでいるとはいえ人間が食われるところは、出来れば見たくない光景ではあった。
新庄は連合の兵士の冥福を祈ると、少し離れた所から、まずは船の残骸だけを回収する。
船と大砲はワンセット……ではないらしく、船の残骸が消えた後に大砲やその弾が残されている。
それを見た新庄は、黙々と大砲や弾も回収するのだった。




