「大砲の図面を盗む、とかかな?」
「たかが化粧品の販売利益程度で」
新庄はオズワルドが掴んだ連合の暴走を知って、呆れた声を上げた。
しかしオズワルドは、新庄の考えを一蹴する。
「この国は“たかが”などとは言えないほどあの美肌美容液で稼いでいますよ。
ここ数ヶ月で稼いだ額は、小さい国なら10年分の国家予算に匹敵します。この金額は新庄様に言われて行った慈善事業による支出を抜きにして、です。
それはもう、戦争が起きても仕方がないほど独り勝ちをしてしまった、という事ですな」
「売り手として、自制はできなかったんだ……」
「それはそうでしょう。売れる時に売り抜かねば、類似商品に押されるやもしれません。機を逃さぬのは基本ですよ」
「余計な敵を作らないのも、基本だと思うんだが」
新庄は、国がどの程度儲けているか、正確には把握していなかった。
国が主導になった段階で、知る手段が無くなったとも言う。
美肌美容液の生産は国が主導する事で一気に拡大し、その売り上げは凄まじい事になっていた。
シドニーが販売する程度であれば、町一つ分の生産能力であれば、ここまで稼ぐ事はできなかっただろう。
それが大量に生産できるだけの人員と素材を国がつぎ込んだのだから、新庄の予測を上回る美容液が生産されたのは、新庄も構わない。
ただ、周囲に敵を作るほどの大儲けをしてしまうのは如何なものかと、新庄はそう思うのだ。
「それについては、儲けた事で連合の国が敵に回るとまでは考えていなかったのでしょうな。
それこそ“たかが化粧品”ごときで国を傾かせるとは思っておらず、シドニー様の強気の値段設定を引き継いだままにして、金貨だけでなく敵意まで稼ぎ過ぎたのですな」
オズワルドはそんな国の失態に、一定の理解を示す。
もともとの販売者であるシドニーは、美容液の量産をしていたとはいえ、そこまで多くは作っていなかった。
需要を見れば少数生産である事を考慮して、シドニーはかなり強気の値段設定をしていた。
しかし、引き継いだ国が生産量を増やしたにも拘らず、値段はそのまま。
それでは「やりすぎ」と言われかねないほどの荒稼ぎになる。相手の足元を見た、悪辣な商売となっただろう。
生産量を増やしたのだから、国は値引きに応じるべきだったというミスである。
「こうなると、食料支援をしたのは拙かったかな」
「しなければ、多くの民衆が飢えて死んでいたでしょう。戦争で死ぬのと、どちらがマシなのでしょうね?」
「こういう時は、不条理な2択ではなく理想を見るべきだよ。“誰も死なせないようにする”のが最善だと、その為の道を模索した方が良い。
ウチの国にはこういう言葉がある。「視野は高く広く、天を目指し、地に足を付けて歩け」ってね。
過去を振り返るのなら、もっと色々考えないと駄目だよ」
「では、どうすれば良かったと?」
新庄は悔やむような言葉を口にする。
オズワルドがそこに口を挟むが、新庄はどうせならと、別の考えを出すようにと求めた。
オズワルドはすぐに手を思いつくが、敢えてそれを口にせず、新庄の意見を聞くことにする。
そこで、新庄は。
「大砲の図面を盗む、とかかな?」
なかなかに酷い意見を口にした。




