「よし、今日からお前は俺の二十番目の妻になれ」
労役は、給料は出ないが、食事なら出る。
飯も食わずに働け、とはならない。
しかし出される食事は最低限で、あまり美味しくないし、量も少ない。
加倉井は一人で町に来たことを後悔し、新庄と行動すれば良かったと考えていた。
加倉井にとって、新庄は“一番怖い人”だった。
新庄は加倉井と同じギフト持ちで、一番近くにいる“男”だからだ。
しかし1ヶ月以上も共同生活をしていれば、危険ではないことが徐々に実感できるようになる。
加倉井に対し強く踏み込まず、距離をとる。
それでいて、離れすぎないところで見守っている。
今の加倉井にとって、新庄は“父親”のような存在だった。
「もうちょっと甘えても……ダメですねー。
新庄さんは結構厳しいです」
ただ、新庄は加倉井に優しくはあるが、加倉井と距離を詰めすぎることをしないと言うより、ある程度、距離をおきたがっているようにも感じていた。
なんと言うか、壁があるのだ。加倉井と新庄の間には。
だから安心できるところもあるのだが、心から身内というには、離れすぎている。
それでも、加倉井にとって新庄は、この世界で一番の味方だった。
「カクライ、この町の領主様がお呼びだ。来い」
兵士としてのお勤め、その最終日。加倉井は兵士の隊長格に言われて、なぜか領主の館に連れていかれた。
加倉井は事情がよく分からず、混乱している。呼ばれるような心当たりは無かった。
呼ばれて行った先では、なぜか着替えをするように言われ、普段の兵士服からドレスのようなものを着ることになる。
日本ではただの女子中学生でしかなかった加倉井にドレスの着付けなどできず、侍女の手を借りながらの着用だ。
そうして着飾った加倉井は、領主という中年男の前に出された。
体型は肥っておらず、むしろ筋肉質な体の持ち主である。この町の領主は書類仕事よりも、いざというときに前で戦うことが求められるからである。
一瞬の油断で命を落とす、そんな戦場を何度も経験している領主は加倉井を見て、満足そうに笑う。
「カクライとか言ったな。うむ、幼い姿だがなかなか見れるじゃないか。
人品に問題なし、魔法も使えると聞いている。いいな。
よし、今日からお前は俺の二十番目の妻になれ。そしてその能力をこの町のために使うように」
そうして加倉井は、その人格を無視され、領主の妻になるように命令された。
結婚には本人の意思が求められるのが常識の現代日本人には理解しがたい話だが、この世界では、結婚など身分で命令できるものでしかない。
結婚などまだ何年も先の話。
加倉井の混乱はピークに達して、彼女の思考能力を奪ってしまった。




