「スラムの連中で、罪状が盗みだからな。まあ、鉱山奴隷だろう」
加倉井は兵士と一緒に、町の中を歩いていた。
町の見回りである。
加倉井は、町の治安維持活動に付き合わされていた。
新庄が作った地下通路から1日だけ砂漠を歩いて、町へとやって来たのだ。
荷物の少なさを不審に思われたが、単独での戦闘能力の高さ、そして魔法という貴重な技術を持っていたため、労役に就くことを条件に滞在を許された。
ゲーム、ライトノベルなどでは多少の金銭で町を出入りしている話が多く、これはまったく想定されていなかったが、税を労働で支払う「労役」は珍しい話ではない。
むしろ、金を持たない人間の方が多い地域ではよくあることだ。町の者にしてみれば、特に加倉井は戦闘技能持ちということだから、加倉井の人格と戦闘能力の把握、町のものへの周知ができるその方が都合が良かったのだ。
「引ったくりだ!」
「待て!」
「待てと言われて――」
加倉井の前で女性が突き飛ばされ、荷物を奪われた。
奪い取った男は小汚ないガリガリのオッサンで、いかにもスラムの住人といった風貌である。
加倉井は反射的に動き、引ったくり犯の腹を槍の柄の部分で殴っていた。思わず、といった具合である。
引ったくり犯はそのまま捕まり、奴隷落ちすることになった。
兵士の目の前で盗みを働いたため、裁判も何も無しに、そのまま奴隷商人のところに連れていかれた。
「あの人、どうなるんです?」
「スラムの連中で、罪状が盗みだからな。まあ、鉱山奴隷だろう」
この町で一般的な奴隷の使い道は、鉱山奴隷である。
農奴は農地が増えない限り需要が低く、砂漠の開拓の難しさもあり、増やす意味がない。基本的に農奴は農奴の家族で賄うものだった。
他には船の漕ぎ手として連れて行かれることもあるが、それはタイミング次第。今は欠員が出て漕ぎ手を欲しがる船がいないため、その可能性も低い。
その為、一番奴隷を消耗する鉱山に送られるのだ。
「まともに働けばいいのに……」
「待遇、条件が悪い。そう言って働きやしないのさ、連中は」
スラムの住人は町の中で生活しているが、税を払っていない。よって何かあったときの扱いは最悪だ。町の人間がスラムの住人を殺したところで、軽い罰で終わる。
脱出するには働き、税を納めればいいのだが、彼らはそれを“しない”。スラムの住人は低賃金で過酷な労働を押し付けられるため、結局は生活費しか残らず、税金を払う余裕が作れない。
何人かで協力すれば、少ない余裕を共有して組織的にスラム脱出をすることは可能だが、学がない彼らにその発想はなかった。考え付いても、仲間集めで失敗する。
加倉井はひどい現実を前に、ああはなりたくないと青ざめるのだった。




