「モンスターの卵といい。なんか、キナ臭くなってきたな」
ギリギリの戦いだった。
仲間の一人が負傷してしまうという、本当にギリギリの戦いだったのだ。
命がけの戦いでは、心の強さが勝敗を左右する。
仲間が大きな怪我をすると、精神的に追い込まれることがあるので、すぐにフォローできたのは僥倖であった。
やられたバラカは気絶していたので、下手をすれば死んでいたのだ。近くに仲間がいなければと思うと、新庄は冷や汗が出る思いであった。
戦闘終了後、念のために班を二つに別けて休憩をとる。
長時間戦闘のため、短時間の休憩ではなく、一晩休むことになった。
新庄の魔力は回復し終えなかったが、加倉井たちは全快している。若さの差ではないが、新庄は元気そうな少女たちを羨ましそうに見る。
「魔石は粗方回収できたと思うのです」
「見逃しがあったらごめんなさい」
「ご苦労様。これだけあるんだから、少しぐらいの見逃しは仕方がないよ」
そしてやるべき事は戦後処理へと移った。
卵はサンプルとして少し持ち帰ることにした。
他には魔石は確定で、あとはあまり見ない種類のモンスターの素材を中心に選別する。
血肉や内臓の類いはすでに痛んでおり、回収の対象にならない。皮や甲殻といった素材がほとんどだ。
一晩経って砂を被っていたが、
積み上げられた素材を、新庄は魔導書に収納する。
持ち帰れない分は風が砂を被せ、埋めていった。
砂漠だけに、ナマモノの部分はすぐに腐って、乾き、粉々になる。いずれはこの地に還るだろう。
新庄がオアシスを復活させれば、緑を育む礎になるかもしれない。
これらの作業は皆でやっても1日仕事となり、新庄たちはまたオアシス跡地で寝る事となった。
翌日はオアシス跡地の調査となる。
これが新庄の本来の目的で、モンスターとの戦闘やその後の処理は横道でしかない。
なんでオアシスが枯れたのかの調査こそが、新庄の知りたい事である。
「やっぱり、新庄さんの方がチートなのです」
新庄はオアシスのあった場所、乾いた土に穴を掘ると、オアシスの基盤であった岩盤を回収する。
ひと一人分の穴しか掘っていないのに、大きなオアシスの岩盤を一回で回収し、地上に置き直した新庄を見て、加倉井が「理不尽なのです」と呟いた。
周りの少女たちも、首を縦に振って同意した。
「穴を開けられた訳か。人為的だな、これは」
太陽の下に持ってこられた岩盤には、大きな穴が開いていた。そこから水が抜け、オアシスが枯れたようである。
問題は穴の開き方で、何かで削り取るように穴が開いていた事だ。
穴の周囲が割れていれば、どこかのモンスターが力任せにやったと考えることができる。
しかしドリルか何かできれいに掘り進められたような穴の周りにヒビはなく、これが人の手によるものの可能性を示唆していた。
「モンスターの卵といい。なんか、キナ臭くなってきたな」
オアシス跡地に大量にいたモンスター。
何者かにより枯らされたオアシス。
新庄はまだ見ぬ誰かの悪意を感じとり、身を震わせた。




