「女だから子供だからって、教えない方が駄目に決まってます」
新庄は加倉井の事を、小さな女の子のように扱う時がある。
それは主に、危険に近付けないという行動として現れる。
知らせない方が安全だと判断すれば新庄は何も教えず、あとになって加倉井は何かあった事を知るのだ。
これが荻たちであれば新庄は遠慮なく巻き込み、自身の危険を引き下げるように動く。
その分の危険は荻たちが背負う事になるが、気にしている様子はない。
加倉井は、戦闘系のギフト能力を持っていて、単独戦闘ならば新庄よりも強い。危険察知能力にも優れている。
なのに自分の得意分野で頼られない事が、加倉井は不満だった。
「つまり、もっと頼って欲しいのです」
「そーは言っても、新庄おじ様は、男性ですし。男の方は、私たち女性に強がるものですよ」
「なんで国どころか世界が違うのに、そんなトコばかり同じなんですかねぇ?」
「そりゃあ、女は子供を産むからですよー」
ここに来た当初の加倉井は14歳。
40の新庄が頼れる相手ではなかったのは、理解できる。
だが、加倉井はすでに17歳で、この世界で三年過ごしており、ギフト能力を使いこなしてかなり強くなっている。
思慮の面ではまだ経験不足な部分もあるが、無力な少女ではないのだ。頼って欲しいと思う。そこが不満であった。
しかし仲間の少女たちは、新庄の考えに共感できる。
この世界は男尊女卑だが、同時に男には戦う義務が課せられており、女を守るのが当たり前でもあるからだ。
自分で女を守れないような男に価値は無いとも言われるほどに、権利と義務が一組になっていた。
その根底に有るのは、産婦と子供の死亡率の高さである。
成人できる平民の子供は五人に三人しかいないので、女性一人がこれだけ産まないと人口が減っていく。
平民でもこれは経験則で知っている常識だ。だからどこでも女に子供を産めと言う。
そして母親になる女も死にやすい。
出産時の死亡リスクは一割近い数字なので、子供だけでなく母親も簡単に死ぬ。
死ななくても産後に体調を崩すのは珍しくないし、実質死亡と言う話だってある。
この世界では女性に多くの出産を求められるので、それ以外を任せられないという事情があるのだ。
だからこそ、男は女を守らねばならず、男の新庄が女の加倉井を戦いから遠ざけ守ろうとするのは普通の考えだと、現地人の彼女たちは新庄を支持する。
日本で学んだ常識がまだ抜けきっていない加倉井は、どうにもその辺りの考えの違いが矯正しきれておらず、共感できない。
「でも、結局は私たちを頼った方が、危険じゃなくなるのです。早めの情報共有で危険管理する方が、絶対に安全なのですよ。
女だから子供だからって、教えない方が駄目に決まってます」
加倉井の考えも、間違ってはいない。
だからこそ、現地の常識に染まれず、苦労することになる。




