「じゃあ、気を付けていけよ」
砂漠の地下に、通路を作る。
数十㎞もまっすぐ掘り進めるのは大変であったが、それでも新庄らは頑張った。
道が曲がっていれば加倉井が指摘する。
地上への空気穴や、雨が降ったときの為の排水用の水路を通路の下に設け、途中で水を補給できる場所も造った。
考えられる問題にはだいたい対応している。
途中で鉄鉱石を見付けただとか、用意されていた保存食が尽きそうだとか、今さらラクダがオアシスに来ただとか、いくつものイベントを挟みつつ、地下通路は完成した。
地上への出入り口は、町からおおよそ10㎞の位置に作られた。
普通であれば目印の一つもない砂漠の中に砂岩で建てられた小さな建物など見付からないが、それでも念のためにそれだけ距離をおかれた。
実際に利用する加倉井は、地図どころか案内音声の無いカーナビのようなギフトがあるので、それでも迷わずに帰ってくることができる。
ちなみに、出入り口を作った新庄本人は、まず間違いなく迷うだろう。
「じゃあ、気を付けていけよ」
「新庄さんは来ないんですねー……」
「俺は弱いからね。もう少し自衛できなきゃ町へは行けないよ」
砂漠の先、人の町に新庄が行くことはない。
新庄はまだオアシスでやりたいことがあった。そして色々と準備ができていないため、安易に動けなかったのだ。
ギフトにより高い戦闘能力を持つ加倉井は大丈夫だろう。
しかし生産メインのギフトを選んだ新庄は、女子中学生の加倉井相手に手も足も出ない程度の戦闘能力しかなかった。
加倉井が強いというのもあるが、いざというときに足を引っ張りかねない。
加倉井と四六時中一緒にいるわけにもいかないので、単独行動をしたとき、トラブルに巻き込まれたときの事を想定して、最低限の力が欲しかったのだ。
だから、弱いだけの今はオアシスで留守番をするのである。
道を造る間に鉄鉱石を大量に手に入れたので、自衛のためのアテはあった。鉄ベースのゴーレムを作れるようになっている。
新庄はゴーレムを作り、身を守れるようになってから町に行くつもりだった。
加倉井一人であれば、揉め事になっても走って逃げればなんとかなるだろう。現地の法律はわからないが、日本の常識で動いたとしても、そう大きなトラブルにはならないだろうと二人は考えた。
「上手く、孤児でも連れ込めればいいんだけどな」
「そうですねー。お金はあるし、奴隷狩りに間違われないといいんですけど」
「そうだな。そこはもう、慎重に行くのと、いざってときは荷物全部捨てて逃げる心構えだけ意識しておくしかないな。
なに、今回失敗しても巻き返せる。様子見と買い物だけで終わらせてもいい。気負うなよ。失敗しても逃げてもいいんだ」
町に行く加倉井は、一人行動に不安を見せた。
そんな加倉井のプレッシャーを軽減しようと笑いかける新庄。
想いは伝わるが、今一つ効果を見せず、加倉井はぎこちなく笑い返すだけである。
加倉井は新庄の準備が終わるまで、待っても良かった。
しかし、ここ最近は新庄に頼りきりだったため、挽回しようと直ぐに町に行く事を決めた。
数日分の水と食料。
護身用の武器。
それらを持って、加倉井は人の領域へと進むのだった。




