「やれやれ。忙しくなったな」
加倉井の予定はしばらく埋まっていたので、新庄はすぐに動けなかった。
応援は無理を言ってまでするほどの事ではないし、あちらに被害が出ていないのだから、緊急性は低いと考えていた。
だがこの時、新庄は二つの見落としをしていた。
フォーン商会の行商が持ってくる情報は、彼らが扱う情報としては新しいものだが、現地の出来事を即日知ることが出来るわけではないので、大きなタイムラグが発生している。
砂漠を歩いて十日の距離のオアシス。
物を売り、町に情報が流れて、それを拾う。
国が違えば商人は手続きを求められる。
そういった時差を、新庄は忘れていたのだ。
これが一つ目の見落し。
新庄が加倉井待ちでゆっくりしていた一月後。件のオアシスが消えたと、そんな話が聞こえてきた。
「オアシスの水は、地下に置いた岩盤で保持していたんだよ。周りは土にして植物を育てるようにしていたけど、メインは岩盤。
それが割られれば、そういう事もあるだろうね」
新庄はその話を聞いたとき、驚きが一周回って冷静になったのを自覚した。
すでに四十を過ぎ、アラフィフになりつつあるので、心が大きくは動きにくくなったのかもしれないと、そんな考えも浮かんだが、それはどうでも良いかと頭から馬鹿な考えを追い出す。
聞いた話は、オアシスから水が抜け、枯れてしまったという話。
住人である彼らは移住を計画していたので、計画を前倒しする事で乗りきったが、なぜそうなったのか、新庄はその原因を尋ねられた。
新庄の作る簡易なオアシスは、地下に岩盤を入れて水の受け皿を作り、土をまぶして整えるというもの。
下に入れた岩盤に何かあれば、確かに水は抜けるだろう。
「メンテは考えていなかったからな。直すことも難しい。一度見に行って、なんで岩盤が駄目になったのかの調査が必要だな。
それと高町オアシスの補強を先にした方がいいか? 同じ事が起きないとも限らない。
やれやれ。忙しくなったな」
地震か何かあったなら、岩盤が割れる事もあり得ただろう。だが、そんな話は聞いていない。
可能性があるとすれば、モンスターの襲撃を防ぐときに何か失敗して、地下にダメージがいったというもの。
もしくは、地下に何かとんでもないモンスターがいて、それが原因で岩盤が割られ、ついでにその影響でモンスターが大量発生したのかもしれない。
新庄のもう一つの見落しは、小袋谷の事だ。
オアシスから追い出された小袋谷の存在を、新庄は全く意識していなかった。
追い出された小袋谷はすでに死んでいるだろうと考えていたし、何事もなければ確かにそうなっていたのだろうが。
彼女が生きていて、暗躍している事に、新庄は思い至れなかった。




