「荻たちは遠征中だから……加倉井たちに頼むしかないのかな」
モンスターの大群、スタンピードと言われるような現象は、この世界では滅多にない。
人間の活動領域から離れた地域ならばともかく、人の領域の中にあるこの砂漠の国々では、全く聞かれない話のはずだった。
そういった予測不能の事態に、新庄達は驚きの声を上げる。
「モンスターの大群って。どこで生まれたモンスターなんだ?
砂漠じゃあ、モンスターだって生きていくのに厳しいだろうに」
「さあ? 出たって事は確かなんだから、どこかで大量発生する理由になる何かがあったんだろう。俺たちも直接見たわけじゃないんだ。
でも、そういう事があったのは事実だぞ。その関係であっちのオアシスの連中がずいぶん稼いだからな」
隣国の砂漠で発生した、モンスターの大群。
この情報を持ってきたのは、オズワルドの部下の一人だ。定期的に行われる行商のついでに、新庄では手に入れにくい外の情報もまとめて教えているのだ。
こういった気遣いが、長く関係を維持するコツなのだ。
ちなみに、発生したモンスターは砂大蠍という、蠍型モンスターだ。
全身の甲殻が砂と同化する色合いの視認性が非常に悪いモンスターで、尻尾には筋弛緩剤のような毒がある。
不意打ちで襲い掛かり、獲物が動けなくなったところを生きたまま食べるという厄介なモンスターだが、その狩りの性質もあり群を成すという話は新庄も聞いた事が無い。
尻尾以外の肉は食べられるし、甲殻は熱や冷気に強い素材なので色々と使い道がある。
これを大量に手に入れ売り払った連中は、さぞかし大儲けをした事だろう。
「オアシスの人には、被害らしい被害も特になかったって聞いたよ。ま、異世界から来たっていうギフト能力者がたくさんいるんだ。偶発的に生まれた多少の戦力じゃあ、落ちたりしないさ」
「そりゃ、備えてはいるだろうけどなぁ。ちょっとぐらい、手を貸しに行くかな?」
あちらのオアシスにも、新庄と縁が出来ている。
その関係が良好なうちは、多少の手伝いをしても良いと新庄は思っている。
数少ない同郷の人間なのだ。無駄に敵対する事も無いし、無理のない範囲で助け合うのが人情だろう。
迎撃で人的被害が出ていないとは聞いたが、それ以外の被害が出ていないとは限らないし、今よりも無理なく迎え撃てる態勢を整えた方が、あちらも嬉しいだろう。
ついでに、こちらで見かけない、希少な素材でも手に入れば儲けものである。
新庄は善意だけでなく、そんな打算も働かせた。
「荻たちは遠征中だから……加倉井たちに頼むしかないのかな。
予定が空いていればいいんだけど」
ただ、救援に行くにしても、一つだけ問題があった。
それは荻たちの不在である。
荻たちは古巣の様子を窺うため、オアシスを離れていたのだ。
オアシスの生活が軌道に乗り、安定して余裕があるからこそ、彼らが出ていった北の国の様子が知りたくなる。
様子を見に行くついでにトレント素材の回収もできるし、荻たちは遠征をすると決めたのだ。
お土産は期待しても良いだろう。
そうやって戦力が低下したバハムートオアシス。
ここを空にするのも如何なものかと新庄は考えたが、過剰戦力とも言えるゴーレムたちが留守番をしているし、特に問題はないだろうと考え直した。
加倉井たちに予定があって断られたら、その時は諦めようかと思いつつ、新庄は彼女たちに話を通しに向かうのだった。




