「あ、それ私のです」
新庄にとってオアシスを増やすのは簡単である。
地上付近には粘土層の受け皿を作り、それと地下水脈を接続するなど、水の循環を作り出す方法は一つ目のオアシスで学んだ。
最初に入れる水は海水をクラフトして作った水を入れるだけ。水の運搬もギフト能力で手軽にできるのだ。
あとは周辺を緑化して家と壁を作れば、完成となる。
「このレベルの地形改変が数日で出来るって言うのは、チートだよな」
「まともに戦ったことの無い素人が、何年も兵士として頑張ってきた人をギフト能力一つで上回るのもチートだよ。五十歩百歩。外から見れば、みんな一緒さ」
こうして高町たちは、新庄たちのオアシスから東にできた、新しいオアシスに移住することになった。
「こうなると、オアシスに名前が欲しくなるな。単に“オアシス”って言っても、どのオアシスか分かりにくい」
「そうっすねぇ。みんなに聞いて、クジでもやるかなー」
「第三新オアシス市とか? 地下もあるし」
「いや、第一と第二はどこにあるんだよ」
砂漠の国には、自然の大きなオアシスなど無い。
新庄と加倉井が送り込まれたことで用意された、このオアシスしかなかった。
よって、これまではオアシスと言えば、新庄たちのオアシスで話が通じた。名前がなくても問題なかったのだ。
それがここ最近は新庄がオアシスを増やしたため、区別の必要が出てきた。
話題になりやすいので、どのオアシスか分からなくなるのだ。それぞれを「小袋谷オアシス」「高町オアシス」と呼ぶことにしているが、今後もそのままでは寂しいというか、味気ない。
「かと言っても、「エルドラド」とか「エリュシオン」とか、そっち系の名前は、ちょっと嫌かな」
「え!? あ、何でもないです」
新庄たちは、この難問に全員で挑むことになった。
全員が一つの候補を出して、クジで決める。クジを引くのは新庄である。
恨みっこなしの、一回勝負。
クジを引く新庄の手に視線が集まる。
「あ、それ私のです」
選ばれたのは、加倉井の書いた名前だった。




