「最初はマトモだったんだがな。普通にモンスターを狩って、戦いが得意じゃない奴にも利益を分配して」
高町たちが出ていったオアシスをまとめていたのは、小袋谷という女だった。
彼女は一緒にやってきた他数人の女と組んで、多数決による意思決定を組織の柱に組み込んでいった。
「最初はマトモだったんだがな。普通にモンスターを狩って、戦いが得意じゃない奴にも利益を分配して。モノ作りを支援していたりもしたよ。
ただ、オアシスでの生活が軌道に乗った辺りで本性を出してきた」
高町が語るのは、あのオアシスがどんな風に歪んでいったかという過程の話だ。
「現地の連中を叩き出すような商売が始まった。
生産系の連中は小袋谷に恩義があったから、あの女に協力的だったよ。それがなくても現地人にいい感情を持っていなかったってのもあるな。
ギフト能力のおかげでそれは上手くいって、少しの味方と多くの敵を作った。
現地人の大半が敵になったことで、俺たちは逃げにくくなったよ」
小袋谷の質が悪い所は、他人を省みなかった事だ。自分達の利益のために現地人を食い荒らそうとしている。
しかも、そうやって自分達を孤立させることで内部崩壊を押さえ、組織を固める切っ掛けにしていった。
イジメ問題でよくある事だが、イジメの共犯になってしまったら、外に助けを求められないような状態である。イジメが悪い事で、止めたいけれど、自分が責められる事を恐れ、止められないのだ。
「地元の商人からは嫌われたが、交易商人とは取引ができた。金稼ぎが上手くいけばいい物も買えるし、生活は豊かになる。
後先考えないなら、上手い手ではあった」
小袋谷は利益分配で自身の地盤を固め、地位を確固たるものにした。
小袋谷の方針に反対しようにも、内部に味方がおらず、外は敵の方が多い。オアシスに味方する連中は小袋谷の利益目当てで、本当にどうにもならない所まで高町らは追い込まれていた。
新庄がやってきたのはそんなタイミングで、高町たちはようやく味方してくれそうな相手を思い出したのだが、周囲の監視があり、逃げ出すのが遅くなってしまった。
なお、新庄を追い返した事で高町は小袋谷から文句を言われたが、そこにどんな思惑があったのか、高町は分かっていない。
高町はまだそういった、人の意図を探るのは苦手だからである。
「このオアシスに、皆を受け入れることはできない。環境的にね、狩りの獲物が足りなくなるから。
ただ、しばらくは居てもいいよ。休暇と思ってゆっくりしてくれ」
高町たちは、ここまで来る間にずいぶん消耗した様子である。
新庄は次の拠点作成の準備もあり、高町たちを休ませることにした。
「なあ、小袋谷たちはどうなると思う?」
「自爆で終わり。もう何もしなくてもいいよ」
最後に、高町はこの先の事を新庄に尋ねた。
それに対し、新庄はアッサリと小袋谷たちの終わりを告げた。
それはすぐに実現する事となる。




