「紙と鉛筆を用意したよ」
地図がある。
それは新庄の考える戦略に必要なもので、新庄自身は数年かけてでも作るつもりだったものである。
戦略を考えるのに地図が無いというのは、ラーメンを作るのにスープと麺を用意しないぐらいあり得ない。オムライスに卵とご飯を用意しない、でもいい。
地図とはそれぐらい重要なものだ。
たとえ大雑把でも、有ると無いでは天と地ほど違う。
色々と言いたかったが、新庄はぐっと飲み込んだ。
新庄と加倉井の間にはまだ信頼関係が出来ておらず、加倉井が砂漠の移動に挑戦していなければ、まだ教えてもらえるような事ではないからだ。
新庄も加倉井に自分の能力について細かく教えていないし、加倉井も悪気があったわけではないだろう。
多少の、情報の齟齬があった程度で怒るのは筋が通らない。
「紙と鉛筆を用意したよ。これに、大体でいいから地図を書いてもらえるかな?」
「はーい」
新庄は地図を書いてくれとお願いしてみた。
加倉井は軽く返事をして、気負うこと無く地図を書き出した。
その様子から、地図を手に入れていることを大したこととは考えておらず、言わなかったのは気にしていなかったのだろうと推測した。新庄が地図の話を振っていれば、教えてもらえた可能性が高い。
新庄は加倉井に怒るより、自分の迂闊さなど、ダメな点に落ち込んだ。
加倉井との距離関係を気にするあまり、能力について聞き出すほど踏み込まなかったのは新庄の判断だからだ。
地図ほど重要なものなら、普通は情報共有をする。
それは新庄の常識で、加倉井の常識ではない。
新人教育ではよくある話なのに、社会人としてこういった見落としをするのは久しぶりであったため、新庄は本気で落ち込んだ。
落ち込んだ新庄だが、地図を書くのに一生懸命な加倉井はその様子に気がつかなかった。
そして加倉井が地図を書き終える頃には、新庄も気持ちを切り替えて復活している。
「距離とか、寸尺は分かるか?」
「えっとね、一番近い町までだと、3日? それぐらいです。
ゲームだと、移動して、エンカウント判定して、ランダムバトルになるの。そのポイントが間に2つあるから、3日だと思うのです、よ?」
砂漠周辺。
近い町は、北北東に3日進んだところに有るらしい。
砂漠のまま海に面しているらしく、沿岸航海の中継地点なのかもしれない。
東には大きな川があり、南と西には山脈があるのだが、そちらの町はさらに遠い。
この拠点は砂漠の真ん中ではあるが、この世界の人の分布からは真ん中ではないらしい。
一番近い町まで3日。
新庄は運良く得た情報に感謝しつつ、今後の事を考えるのだった。




