「多数決をすれば良い方に向かうなんて、ただの幻想だよ」
最初、新庄は高町のグループが一つの意思で動いていると考えていた。
実際、それは間違っていないだろう。
組織としては一つしかないし、全員が協力しあって生きている。
だが、内部は新庄が思った以上にバラバラだ。
日本人の協調・同調スキルか、集団行動をしているが、それだけなのだ。
少数意見が封殺され、意見が通らなくなっているだけ。そうやって押さえ付けられた高町のような誰かが我慢をして成り立っているだけの組織だった。
あのオアシスの連中はまだ分裂していないだけで、いずれ瓦解するだろう。
オアシスを出ても、一行はしばらく静かにしていた。
新庄たちが口を開いたのは、安全が確保されているだろう地下通路に入ってからだ。
「つか、アイツ、何なんすかね。やけに早く出ていけ、って態度だったけど」
「盗み聞きをしているのがまだいたのか、それとも厄介な奴が来る前に帰れって事かもな。もしくは、その両方。
オアシスを中心にして生活しているから、多数派にそこを押さえられると弱いんだろう。民主主義の欠点だよ」
荻グループの一人が愚痴を溢す。
そこに新庄は自分の中にあった予測を返した。
「多数決をすれば良い方に向かうなんて、ただの幻想だよ。
日本の選挙を見るとよく分かるけど、適当な言葉に騙されてどこかの政党が大勝するなんて事が何度もあっただろ。それと同じだよ」
新庄は多数決に対し、厳しい考えを口にする。
事実、民衆が綺麗な言葉に騙され、間違った指導者を選ぶことは、過去に何度もあった話だ。その事は荻たちも知らないわけではない。
「じゃあさ、アイツらは分かっていて経済侵略してる訳?」
「分かっているのは、意外と少数かもね。連中の指導者クラスに一人か二人はいるだろうけど、下の大半は知らなくても不思議はないよ。
もっとも、知っていても罪悪感を感じない様に騙されているって可能性の方が高いと思うけど」
「うげー。どっちにしてもタチ悪いなー」
経済侵略を分かっているかどうか。
高町のように、反対意見でも全体の決定に従っているパターンもあるが、それが多数派ならばこうはならないだろう。反対派は少数である。
分かっていてやるなら、どういう考えで侵略するのだろうか?
日本では同業者との競争など当たり前の事なので、悪い事とは認識しづらいのかもしれない。
自分達の手元に入るお金を見て、単純に利益を優先しているかもしれない。
そもそも、彼らのせいで失業する誰かがいるのだとか、失伝する技術があると分かっていないのかもしれない。
この点については「かもしれない」ばかりである。
「こういう時の切り崩し方は簡単だから、あとは高町の奴がそれをいつ決行するかなんだよな」
色々と話は出たが、対策は難しくないと、新庄は気楽に次を考える。
加倉井の持つ地図を見て計画を練ろうと、新庄たちは帰る足を早めた。




