「いや、そもそも、町がどの辺りにあるかも分からないよな?」
加倉井の“お願い”は、新庄にとっても利益のある話だ。
地下に通路を作れば、それだけ安全に素早く移動ができる。
新庄が外に行くのはまだ先の話だが、加倉井が買い出しに行けば、人の世界のものを手に入れる事ができる。
一般的な旅では、歩きの移動は良くても1日20㎞と言われる。
マラソンランナーなら1時間と少しで走りきるし、一般人でも休みながら1日歩けば、倍を移動できる程度の数字だ。
それが20㎞になるのは、天気や道の状況、荷物の重さが関係するが、それだけではない。
天気や道の状況が悪ければ歩きにくい。荷物が多ければ足が遅くなる。長距離移動を前提とすれば、翌日に疲れを残さないペースというのもある。
そこに、盗賊や野性動物への警戒も追加されるので、移動が遅くなるのだ。
新庄が道を造った場合、環境面の問題は暗いことだけになる。外の日照りも、地下には関係ない。
そして盗賊や野性動物に警戒する必要がなくなるし、水だけでも補給できるようにすれば、荷物も減らせる。
さすがにまだ乗り物は用意できないが、それだけでも移動は大幅に楽になるだろう。
地下通路を造るのに時間はかかるが、そこは大きな問題ではない。
注意すべき大きな問題は、その地下通路を見知らぬ誰かに占拠される可能性があること。
盗賊などが入り込み、オアシスに来ないかを警戒する必要があった。
それさえクリアできれば、新庄だって安心できる。全力で協力できる。
逆に言うと、そこがクリアできるまで、全力で協力するのは難しい。
「人の居るところ、そこからは少し距離をとる。外の町だとか、そのすぐ近くに出入り口は作らない。
雨が降ったときの時の、浸水の問題があるからその対策もするとして……。
いや、そもそも、町がどの辺りにあるかも分からないよな?」
「あ、それは分かるのですよ」
「分かるの!? え、地図とかあったの?」
「そーゆーギフトなのです」
協力のための条件や問題点を考える新庄。
安全対策のため、人の町の近くに出入り口を作りたくないと口にする。
そこで、そもそも町が何処にあるか分からないと、警戒の仕様もないのではないか? そんな考えを持つ。
双眼鏡でもクラフトして、周囲の探索もしないとダメか、そんなことを考えていると、加倉井がここに来て一番の爆弾を落とした。
「小さい村までフォローしてないけど、大きいところなら大丈夫!」
自慢するように胸を張った加倉井を引っ叩いてやりたいと思った新庄は悪くない。