「あの日、お前が糸瀬に渡した水。それに毒を入れ、死に追いやったのだろう!」
糸瀬を上手く誘導した新庄だが、ひとつ気になる事があった。
それは、糸瀬の随員である。
糸瀬のフォローが彼らの仕事のはずだが、新庄との交渉の拙さを見ると、ちゃんと仕事をしているのかどうか、怪しく思えてしまう。
連合から送り込まれた事を考えると、糸瀬の事情よりも連合の事情を優先するのは当然だが、そこに一抹の不安を抱く。
その不安は的中し、二日後、新庄は冤罪を被せられた。
「新庄! お前には協力者、糸瀬を毒殺した疑いがある! 大人しく付いて来い!」
まさかの、殺人の疑いであった。
「あの日、お前が糸瀬に渡した水。それに毒を入れ、死に追いやったのだろう!
罪を認め、刑に服するがいい!」
当たり前だが、冤罪である。
糸瀬を毒殺したのは、彼女の随員たちだ。
糸瀬が自分達にとって不利益となる、制御できなくなるような知恵を持ったので、食事に毒を混ぜ、殺したのだ。
彼ら随員は、本来であれば糸瀬が国の不利益になるような行動を取らないようにと送り込まれた工作員である。
都合のいい情報で思考を誘導し、学ばせない事で制限をする。それは新庄からの入れ知恵さえ無ければ、上手くいっていたのだ。
それで糸瀬がいなくなった損失を、新庄を連れて行くことで補填しようと、このような話をでっち上げたのである。
シドニーに話を通すと確実に反発されると分かっているため、彼らはシドニーに内密に動いているつもりであった。
実際は、シドニーの配下が一連の流れを掴んでおり、真実を把握している。
ただ、シドニーは新庄を助けようとしていないだけだ。
新庄は自由に生きる事を望んでいるので、必要なとき以外にシドニーの手を借りたくない。
手を借りるというのは、保護下にあるということで、シドニーの下につく扱いだ。友情を理由にするにしても、公私混同をするような助力は重いのだ。
保護されない事で、義務を背負わない。
そして何かあれば相談し、協力する。
今の新庄とのシドニーの関係は、そのような形に落ち着いていた。
「出てこい、新庄!」
糸瀬の随員は、国が後ろにいるのだからと、強気で押せば、新庄も無条件に従うと勘違いしている。
新庄が国を相手にしても退かない事を知らないのだ。
糸瀬の暗殺とその後の予定は連絡員に報告済みで、彼らの中では規定路線だ。
大した戦力も持たないのに、人を殺す事を躊躇しない随員の男たちは、深く考えずに新庄を脅すのだった。




