「あ、侵入者が来ていたのか。珍しいね」
シドニー本人は、新庄との敵対を避けるように動いてある。
新庄との敵対には利益が見出だせないのに、損失はとても目立つ。リターンの無いリスクを拾うほど、シドニーは愚かではない。
ただ、シドニーから見て利益が無いだけで、シドニー以外にはいくつかの利益が見えてしまう。
分かりやすいところで、名声。
新庄に手を出せば、火傷では済まない。それほど強いと思われている。倒すことができれば、相応の名声が手に入るだろう。
また、今回入手された「地下都市計画」の開発品は、とても魅力的に映った。
手に入れる事ができれば、莫大な財産になると考えられた。
新庄が不可侵であるのは、使役する精強なゴーレム軍団だが、新庄本人は弱いと思われていた。
また、新庄たちギフト能力者がドラゴンに狙われているのなら、戦いを挑む大義名分はあるので、今ならば挑んだとしても周囲から止められる可能性が普段より低い。
シドニーの部下、そのうちの一人は新庄をどうにかするべく、動いていた。
「しかし、奴には仲間が居ますぞ。単独ではありませぬ」
「案ずるな。周りの奴等は普段、外回りをしておる。別行動の時を狙えば良い」
加倉井や荻たちは、いない時を狙えば良いと放置される。
彼らは新庄だけなら、勝てると考えていた。
そこまで大きく間違っていない。
新庄本人を狙うのであれば、勝てないこともない。
それが不可能ということを除けば。
「あ、侵入者が来ていたのか。珍しいね」
こんな馬鹿な話が行われた数日後、オアシスを守るゴーレムが侵入者の成れの果てを新庄の前まで持ってきた。
肉食動物の餌にすると、その動物が人の味を覚えてしまうので、それはできない。
新庄はその遺体を処分すると、遺品をシドニーに渡すように手配する。
そして、部下の暴走を知ったシドニーが激怒した。
「新庄が居ることによって発生する利益を理解していないのか!! 砂漠の緑化、農地の増大! その他色々までとは言わん、替わりが出来ると言うならやって見せろ!!」
新庄は替えの利かない重要なパートナーだと言い切るシドニーに、他の部下が進言する。
「お言葉ですが、新庄らがドラゴンを呼びかねないのです。
この者の行動は短絡的ではありましたが、町のためを思っての事。寛大な処分を、お慈悲を頂きたく思います」
暴走したことに非が無いとまでは言わない。
しかし、その理由が理由なのだから、厳罰に処するべきではないと口を挟む。
そしてシドニーの怒りに油を注いでしまった。
「愚か者が! 「町の為」と言えば命令に背いて良いと言うのか! 俺の命令はそこまで軽いと言うのか!
新庄を排除すべきと言うが、一度でも詮議にあげていたならともかく、徹頭徹尾裏でコソコソして、結果を出して開き直ろうという根性が気に食わん! それを認めてしまえば誰もが好き勝手に動くことが、なぜ分からん!
他の者たちにも言っておくが、町の為と言えば許されると思うな! 町の為と言うなら、せめて終わったあと、自らが処罰される覚悟をもって動け! いいな!」
強く言い過ぎれば、部下の反発を招く。
しかし、それでもシドニーはかなり強く部下たちに言い含めていた。そうしないと、部下たちに軽く見られ、制御できなくなるからだ。
シドニーの権力は強くなっている。
その分、下が増長し始めているため、シドニーはここが踏ん張りどころだと拳を強く握った。




