「共存共栄、素晴らしいことだな」
シャリーは、町の名士の孫娘である。
シャリーの祖父はシドニー陣営の人間で彼に忠誠を誓っているし、裏切るつもりなど欠片も無いが、それも町があっての事だ。
郷土愛の方がより強く、故郷である町を守るためなら、悪鬼外道と呼ばれても構わないと考えていた。
なお、彼の中にあるのは愛国心ではなく、郷土愛である。国の事はこの町を軽視していたため、むしろ嫌っている。
それを是正した新庄に感謝しているが、同時に町に所属しないことを理由に、彼は新庄に警戒心を抱いてもいた。
「で、シャリーや。報告を聞かせてもらおうか」
「はい、お爺様」
祖父は当たり前のように情報を流すようにと求め、シャリーは淀む事無くスラスラと話し始める。
シャリーもまた、祖父と同じ人間である。
この町が好きで、自分に何ができるかを考えて、加倉井の下にいた。
彼女にとっても、大切なのは町と、その住人たちだったのだ。「町のために生きる」という認識は祖父と変わらない。
加倉井は分かりやすい強さを持っており、それが町に向かないようにするのが彼女に与えられた仕事だった。
町に被害を出さないようにするだけでなく、町のために使うことができれば、もっと良い。
そして新庄に関しての情報も集め、上手く取り込むように……とは言われていない。新庄とは距離をおくように言い含められていた。
若い加倉井ならばともかく、壮年の新庄が相手だとシャリーは力不足。深く関わるのは危険だと判断された。
「地下に避難用の施設。本当にできるのか?」
「新庄様でも、難しいようです。常時松明を灯し続ける様なことは現実的ではないと。
現在はそれをどうにかするべく、研究中です」
「位置は、大丈夫なのだな? 町の反対側に作らせたのだな?」
「はい。新庄様も町への被害が出ない方が良いと、ちょうど反対側に造られました」
「共存共栄、素晴らしいことだな」
シャリーの報告は、町にとって必要な情報だけに絞られている。
不要な、火薬関連の情報などは意図的に省かれていた。
なぜなら、その情報を外に漏らした後の展開を、新庄に教えられていたからだ。
下手をすると、町がオアシスを接収するための前線基地として周囲から使われ、町の営みが荒らされる。
優先するべきは、町だった。
家ではない。
新庄に説得され、唆され、言いくるめられたシャリーは、「町のために」と一部の情報を隠匿した。
もっとも。
「ゴメン。たぶんバレた」
隠匿に失敗した元仲間のせいで、無駄な努力となってしまったが。




