「でも、隠れてるだけじゃダメじゃないっすかね?」
地下に生活空間を作り、そこで生き残りを図るような計画は、シドニーやオズワルドには伝えられていない。
彼らが協力したとしても、現状はまだ人手を必要としていないし、協力により情報が国などに露見される可能性が出てくるので、伝えるメリットが小さくデメリットが大きい。
これが都市規模で、ジオフロントのようなものであれば共有する意味もあるが、ごく少数のための生活拠点では、運用面を含め費用対効果が最悪なのだ。
使えたとしてもシドニーやオズワルドでは生命維持のための魔力を賄えるとは思えず、ほんの数日、一時しのぎにしかならない。
それなのに、ここで使われている技術や産物は周囲から狙われてもおかしくないので、情報が拡散したあとの危険度は考えるまでもない。
荻が頭を抱え困ったように、知らない方が良かったと思うのは無理もない。知らないのが一番なのだ。
「まー、これを俺らに教えた理由は分かるんっすけどねー。
例の、ドラゴンの話っすよね?」
「そうそう。なんか、あちこちで被害が出てるって、ジュードさんから話が回ってきたんだよ。
しかも、さ。ギフト能力者が狙われているって可能性も指摘された。やられたところはまだ気が付いていないっぽいけど、いずれ指摘されそうな気もする。生け贄が欲しいって意味で」
新庄が地下施設建造を頑張る理由に、自分達の安全確保があげられる。
年単位で付き合いのあるシドニーたちはともかく、国は信用できない。ドラゴンに売られる危険性を無視するのは愚かだろう。
国が個人よりも国そのものを優先するのは仕方がない事なのだ。全体利益を優先するからこそ、国は国足り得るのだから。
そういう意味では、まともな国だと信用しているとも言える。
「でも、隠れてるだけじゃダメじゃないっすかね?
反撃しなきゃ、いつまで経っても出ていけないし、ずっと地下にいるくらいなら一か八かって思うんすけど。そんなに長く居ないなら、ここまでやる必要、あるんですかね?」
ここまでのものを造らなくても良かったのでは?
徐々に冷静さを取り戻した荻は、地下で見たトンデモないものに対して疑問を抱いた。
目的に対し、ここまでやるべきかどうか判断が付かなかった。
ただ、必要とされる地下施設が数日どころか数ヶ月単位で引きこもるような前提のように見えて、今の施設は過剰ではないかと思える。
ドラゴンの襲撃があるとはいえ、やりすぎだと考えられた。
どうせなら、そのリソースを他に回すべきではないかとすら思える。
しかし、新庄は笑って荻の言葉に応えた。
「ああ、それなら対空砲を用意してるし、爆弾も作っているから、地下からでも反撃はできるよ」
「俺のバカ……。言わなきゃ良かった」
そして知らなくていい事を更に追加された荻は、再び項垂れるのだった。




