「この辺りにあるのは大体は骨粉の成長ブーストと特殊な土を使った新種なんだけどね」
地下施設ということで、新庄が特に気にしているのが、食料生産と空調だ。
水はなんとかなるアテがあるのでそこまで意識していなかったが、この環境で有益な生物相を作るべく、色々とファンタジーに手を加えていた。
今回の見学者は荻だけである。他の仲間は仕事のあとの休養で、町に出ていたのだった。
連れて来られた荻は、そこに有るものを見てアゴが外れそうなほど驚いていた。
「この辺りにあるのは大体は骨粉の成長ブーストと特殊な土を使った新種なんだけどね。
うん。思ったよりもファンタジーになったわけだ」
「ちゃうねん。これを、ファンタジーの一言で済ませるのは、ちゃうねん。
新庄さん、アンタ何やってんの!?」
地下で自生していたのは、ヒカリゴケぐらいである。あとは新庄が持ち込んだ植物で、これを暗闇に適応させたりした結果、想像と違う植物が生まれていた。
この世界はファンタジーな、魔法があってモンスターが生きている世界だったのである。地球の常識だけで想像しきれない事が起きても不思議ではない。
ただし、「仕方がないね」で済ませられるかどうかは人による。
荻は驚きのあまり、どこかの芸人のような喋り方をしていた。
「なんか光る麦畑はいいっすよ。ヒカリゴケの性質が混ざったんだろうなって、そんだけの話だし。
でも、そっちの木は何!? 表面に水の膜があるんだけど! 物理法則はどこにいった! つか、そんな植物、品種改良の範囲じゃねぇ!!」
荻が驚かされた、一番インパクトがあった植物は、水を纏った木である。中身は桜のような広葉樹だ。
この木は水で濡れているのではなく、分厚い水の膜で覆われている状態で、枝葉の辺りまで水がある。よく見ると、その水の中を魚が泳いでもいた。
普通なら水は地面に流れ落ちるだろうし、水の重量を枝が支えているなら、自重で枝が折れるようにも見える。明らかに重力に逆らっている。
これがどこかの森の奥地で、自生していたものなら荻もそういうものだと思っただろう。
しかしこの木は新庄がギフトで育てたもので、元は普通の植物である。地下でも育つようにと適応したにしては、色々とおかしい。
「土を作るときの砂に、ストーンゴーレムの残骸から作った砂を混ぜたらこうなった。あのゴーレム、水中移動のエンチャントをかけていたから、その影響かな。
あの残骸が混ざると、次のゴーレムを作るときに邪魔をするから粉々にして土に変えたんだけど。魔石にはなってくれないのに、魔力の影響は残るんだよね」
「うおぉぉい!? 何、そのヤバイ仕様! 地上でやったら大惨事じゃね!? 回収してなかったらどっかで同じことが起きてたよ!」
おかしいのは土だったようで、新庄がかつて作ったストーンゴーレムが原因である。植物だけに、土の影響を強く受けるようだ。
骨粉だけでは、こうはならない。もしも骨粉でどうにかなるなら、オアシスの森の拡張の時に気が付いていただろう。
荻は新庄が大半のストーンゴーレムを回収していたことに安堵するが、別の懸念を、ふと思い出した。
「新庄さん、これ、他のエンチャントも……」
「確認済みだよ。たぶん、想像した通り」
エンチャントには多くの種類がある。
それらがどのように影響するかを想像した荻は、顔色を青くする。
「この子らは、まだ植物の範囲。モンスターじゃないから、大丈夫。危険なのはもう、木材にしたから」
「実験済みかよぉ……」
そして力なく、膝から崩れ落ちる。
新庄のギフト能力は、荻が思っていたよりも特級の厄ネタであった。
新庄にしてみれば、自分にできる事を確認して、選べる選択肢を増やす目的だったと理解できても、知らない方が良かったと泣きそうな気分になる。
荻は「生産チートはヤバい」と、神様に忠告したくなったのだった。




