「みなさん……。あとは、任せましたよ」
ドラゴン多数。
戦って勝てないとは言わないが、被害が確実に出るのであれば、逃げることは間違いではない。
勝てない戦いは、勝てるようになってから挑むのが常道だ。それまで戦うのは避けるべき事。
生きる事は綺麗事ではないし、生きる為に足掻くのは生物として正しい。
ただ、ドラゴンにしてみれば勝てるから挑んでいるのであり、逃げられないように手を打つのが正しいとなる。
これはどちらが正しいという話ではなく、ただの生存競争にルールも何も無かっただけだ。
「……三花が、やられました」
「そう。戦果の方は、どう?」
「これでドラゴン四体目です」
村に姿を見せたドラゴンは、囮だった。
これぐらいならなんとかなるだろう。そう思わせて敵を釣り出し、有利な状況を作ってから本命で襲う気であったのだ。
慎重な彼女らが逃げ出した時点で作戦失敗を悟った囮のドラゴンは、ギフト能力者に襲い掛かった。
予定された戦場を使えず、逃亡とはいえ、戦場を指定できるギフト能力者にドラゴンは苦戦を強いられて、すぐに多くの被害を出す。
しかしドラゴンもやられるばかりではなく、ギフト能力者に損害を出して、消耗戦へともつれ込ませた。
あとは戦力で勝るドラゴンが押し切る。そんな状況のはずであった。
「予想以上にあの人間は使えなかったな。しょせんはゴミか」
「事前の情報に間違いはありませんでしたので、それだけでも良かったと見るべきでしょうな」
ドラゴンたちが優位である一番の理由は、内通者の存在だ。
村の中に、ドラゴンに内通している人間がいたのである。
彼は、この世界の人間だった。
標準的な現地人の彼は、善人ではあったが男尊女卑を常識として認識しており、日本人的な常識を持つギフト能力者とは馴染めなかった。
自分では普通にしているつもりでも、度々怒られる事があったのだ。
そうして表面上は従いつつも、内心では不満を募らせていたのである。
そんな彼は龍人と接触して、多額の報酬で彼女たちを売った。
対価は得た。
あとは逃げた先で幸せな生活を送るだけ。
内通者である彼は、目印であるアミュレットを持っていたので自分だけはドラゴンに殺されないと思っていたが……。
「祈里さん! 非戦闘員が!」
「そんな……。みんなが……」
内通者をどうでもいいと考えていたドラゴンの攻撃により、他多数の非戦闘員ごと殺されてしまう。
囮のドラゴンにしてみれば、これで彼女たちは復讐心に駆られ、怒りで逃げなくなると考えていたのだが。彼女たちは逆に、枷が無くなっただけであった。
怒りも憎しみもあるのだが、復讐のために形振り構わず生き残ることを優先した。
「全員! 敵討ちのためにも、今はバラバラに逃げるわよ!
殿は私に任せなさい!!」
足に自信のある一人が足止めのために残り、三々五々に逃げていく。これも事前に決めておいた行動であり、彼女たちに迷いは無い。
いくつかの集団は逃げ切れなかったが、半数以上が無事に逃げおおせたのであった。
そして、最後に残った彼女は。
「みなさん……。あとは、任せましたよ」
ドラゴンから逃げ切ることなどできないのを最初から理解していた。
だから仲間が逃げるのを見届けたあと、特攻を行い、ドラゴン二体を道連れに散っていく。
魔力を暴走させる自爆技で大爆発を起こした彼女は、最期に満足そうな微笑みを浮かべたのだった。




