「でも、相手にも都合があるから、こっちの思い通りにいかないのも仕方がないことだけど」
夜になっても、王都には巡回の兵士がいる。
彼らはランタンの灯りを頼りに、三人一組で見回りをしているのだ。
新庄はそんな兵士たちに見付からないよう、王都の外から穴を掘り、海底に姿を見せた。
「浸水はしないな。よし」
海の手前でU字に穴を掘ることで地下通路への浸水を防いだ新庄。
そのまま海底に沈むゴーレムや船の残骸を回収していく。
新庄は全身をモンスターの革装備で固めており、見た目だけなら水中作業に不向きなのだが、これらはエンチャントにより水中作業に特化した物になっていた。
兜には≪水中呼吸≫で顔を包む泡を作り、酸素ボンベのようなものを作る。
鎧には≪保温≫で体温が下がりすぎないようにして、長時間の水中作業に耐えられるようにする。
籠手には≪水中作業≫で水の重さで腕の動きが遅くなることを回避して、靴には≪水中移動≫で、泳ぐ速度を倍以上にしている。
さらには夜間の作業なので、『暗視のポーション』を飲んで視界を確保する。
ポーション、つまり液状の薬なので、どれだけでも飲めるということは無い。一本200mlで、複数のポーションを連続使用することは難しい。
たくさん飲もうとすると「もう飲めない」という状態になるかもしれないのて、それ以外のポーションの使用は避けている。
ゲームには無かったが、オーバードーズの危険性もある。
さすがに、新庄はこんなことを自分たちで試す気はなかった。
全力の水中作業装備に身を固めた新庄は、三時間ほどで目に付いた物の回収を終える。
そして地下通路へ戻ると、回収した物のうち、船を確認した。
大体の船は底を殴られ壊されただけで、そこまで大きな破損はない。ただ、竜骨の部分が確実に破壊されているので、そのまま直すことはできないだろう。
新庄は壊れた船を格納した魔導書の中で、木材を使い、修復を試みる。
ゲームなら耐久力のあるアイテムは、耐久力が無くなるとロスト、消失する。
しかし、現実では壊れてもアイテムはそのまま残り、消えたりしない。
新庄はそれを利用して、船を直せないかと考えたのだ。
新庄の考えは当たり、壊れた船は普通の船になった。元から壊れていたところまで修復され、多大な修復素材と魔力を持っていかれたが、一応はなんとかなった。
修復した船を港に浮かべ、新庄は再び地下に戻る。
「これで他国の牽制ができればいいんだけど」
この国とその国王、そして重臣たちは信用できない。
ただ、ここまでされて安易に手出ししてくるとも思わない。
新庄は自身の危険性と有用性を国に理解させ、適切に距離を保てるように教育するつもりだった。
そして教育した国を多少は守るつもりでいる。せっかく付き合い方を教えたのに、それが無駄になるのは面白くないからだ。
船の修理は、国力低下を防ぐ策の一環である。
自分に喧嘩を売らないのであれば、この国が強い方が何かと都合がいい。
平和な生活のため、戦争を吹っ掛けられない程度に、国に力を持ってもらわないといけない。
「面倒だよな。
でも、相手にも都合があるから、こっちの思い通りにいかないのも仕方がないことだけど」




