「面倒だけど、環境を作る事はできるかね?」
モンスターである白蠍の繁殖速度は、新庄らが思っている以上に遅かったようだ。
連日の狩りは徐々に徐々に前へと進み、そろそろ日帰りが難しくなる所まで進まねば白蠍に遭遇しないほどいなくなっていた。
そうして、新庄たちは蠍狩りをいったん止めることにした。
新庄から見て白蠍は素材としては美味しくない相手で、体内にある魔石だけが唯一嬉しいものだった。
エンチャントは試したいが、そもそもエンチャントをする為には他にも準備が必要で、実はまだ試すことができない。
それよりも鉄や宝石が欲しいと、穴掘りをメインに日夜頑張っている。
新庄は蠍が居なくなっても、生活に大きな影響がない。
加倉井は白蠍をテイムし、味方に引き入れる事も試したかったようだが、残念ながら、ジョブの解放がそこまで進んでいない。先は長いと、槍の素振りだけは欠かさないようにしていた。
加倉井はモンスターを殺す事で普通よりも多くの経験を積めるようだと感じていたので、素振りよりもモンスター狩りがしたかった。
しかし、いないものは仕方が無いので、しばらくは蠍が増えるのを待つことにする。
経験値が美味しい、そう思っていたからこそ蠍狩りをしていた加倉井にとって、これは痛手だった。
共同作業の時間が増えれば、二人の間に多少の会話も生まれる。
その会話の中で、二人は砂漠で生活していくにあたり、いくつかの決め事を追加していた。
「砂漠にラクダ、定番と言えば定番だけどな」
そのうちの一つ。
「騎乗できそうな動物がいたら、絶対に確保したいのです! オアシスがあれば、いずれ来るのですよ!
……それまで、オアシス周辺を壁で囲うのは待ってほしいです」
加倉井が、オアシスにきっとラクダがやって来ると言って、オアシス保護のための防壁づくりに難色を示していた。
オアシスは、徐々に小さくなっている。
オアシスの周囲に生えている植物も、徐々に姿を消している。
今はまだ大丈夫だが、何もしなければこのオアシスは無くなる運命なのだ。
そうやって追い立てる事で、転移者をモンスター退治に向かわせようという神様の算段だろうと、新庄は考えている。
そんな状態だからこそ、新庄は早めに対応したいと考えていたが、加倉井の言い分にも理が無いわけではないので、様子見に留めている。
ラクダのような生き物がいた方が、砂漠の移動は安全になるのだ。
騎乗するかは横に置き、オアシスを出て砂漠で数日間生きていくのであれば、荷運びに使えるだろう。
新庄は魔導書にアイテムを格納できるので、ラクダなど必要ない。
ただ、オアシスは二人の共同管理という話になっているので、しばらくは加倉井に優先権を渡している。そういう認識でいた。
水の問題は既に地下という水源を確保しているから問題ないのだが、オアシスの価値は、今はどちらかと言えば生えている植物にあるので失われていない。新庄が作る松明の材料はここでしか手に入らない。
つまり、新庄にとってオアシスは無くなってほしくない事に変わりはないのだ。
「面倒だけど、環境を作る事はできるかね?」
上手くいくかは分からないが、新庄は地下で採取した苔や魚をオアシスに持ち込み、繁殖できないか試すことにした。もちろん加倉井の許可は取っている。
そして、オアシス周辺で生物の多様性が増すようにと、祈りを捧げる。
生物が増えれば、それだけオアシスの寿命が延びる。
地下で汲んだ水を地上に持ち込みながら、新庄はため池の小屋など、穴掘りのついでに色々と地上を改造していくのであった。