「結局、友人になる事は叶わんのが残念であるな」
平和で幸せそうなシドニーとは対照的に、オズワルドは大変だった。
王都側との航路が絶たれ、その再編に追われていたからである。
放置する訳にもいかず、これをどうにかするために新庄が手を貸していた。
「西4番航路、無事に開通しました。北方との航路は、これで片道10日の短縮が可能になります」
「中継拠点は2ヶ所まで入植が終わりました。3番拠点の入植は次回の人員輸送で行う予定です」
手を借りた事で余計に忙しくなった部分もあるが、そうでなければ手が足りなくなるところであった。
手と言うよりは、足だろうか。
王都との確執は、確実にオズワルドへダメージを与えていたのである。
オズワルド所有の船は王都側の航路封鎖により、いくつかの船が大回りを余儀なくされ、通常よりも人と船に負担を強いる状態となった。
そうなると商取引のペースが乱れる事になり、相手先との間にトラブルが発生してしまう。
普段であればいつまでに物が売れて、いつ頃収入があるのか予測ができていたところに大きな乱れがあると、それだけ相手に損を出してしまうのだ。そうなると商会の信用が下がり、経営が苦しくなる。
可能な限り乱れを抑えようとするなら、その分は下が馬車馬のように働かねばならなくなるのだ。
新庄はそれを少しでも緩和するため、海のど真ん中に島を作り、そこを中継拠点とするように整えた。
中継地点がある、そこで水や食料の補給ができるなら、選べる航路は大きく増える。一回の船便で運べる荷物も増える。
町から近くにある拠点の島までなら小さな船でピストン輸送も可能だ。使える船が増える事を意味する。
そうなると、商会の負担は大きく下がる。行動に余裕ができるのだ。
島は小さな村が入る程度の広さだが、真水を溜め込む手段が用意され、小さいが農地まであった。
さすがに家畜はいなかったが、それを求めるのは贅沢というものだろう。
拠点の島ができた事で、船乗りたちは北の国々との交易に新しい航路を開拓できるようになったのである。
「それにしても、島まで作り出すとは。このオズワルドの目をもってしても見抜けなんだわ……」
オズワルドは新庄の非常識さに畏怖を抱いていた。
国王が欲しがるのも無理は無いと、感情的な部分で共感する。
オズワルドも、新庄を自由に使えるようになるなら、どれだけの富を生み出せるのか想像もできない。
ただ、金貨の山を作るぐらいは簡単なのだろうと、それだけは分かっている。
国王とオズワルドの差は、新庄への理解の深さだけである。
シドニーとの差を考えるのなら、運と間の良し悪しぐらい。
自分たちの間に、そこまで大きな差は無いと思っている。
「結局、友人になる事は叶わんのが残念であるな」
オズワルドは、新庄と距離を詰めてもっと手を借りたいと思っていたが、それがどうにもならない事だと、すでに悟っている。
すでにシドニーという保護者を得た新庄に、オズワルドと仲良くする理由が無いのだ。
直接会ったのがシドニーよりも先であったら。
せめて、送り込んだ部下が暴走していなければ。
そうすれば、今とは違う関係を作れたかもしれない。
そうならなかった事が、オズワルドは残念でならない。
そして、自らの非を認め、頭を下げた過去の自分を褒めてやりたい気持ちである。
こんな非常識を相手に、敵対など選ぶ方がどうにかしている。
あんな新庄を自分の思い通りにできると思うほど、オズワルドの頭はお花畑ではない。
オズワルドがするべき事は、繋がりを友好的な状態で維持したまま、自分から深く踏み込まない事だ。
そうやって、いま得られる利益を大切にするべきだ。
オズワルドは、無謀な賭けに出るつもりなど無く、堅実に手を打っていった。




