「MP回復補助のアビリティを優先したのですよ……」
「余裕じゃないか、加倉井は」
「ワンミス即死のクソゲーなんて、死んでもゴメンです! つーか、マジで死ぬクソゲーですよコレ!!」
新庄は加倉井にも戦闘経験を積ませるべく、地下のモンスターコロニーの場所を教えた。
序盤は引率として付き添い、その戦闘能力を評価する。
加倉井には一発限りの魔法や投石といった、残念な遠距離攻撃手段しかなく、本人いわく「まだ魔法ジョブのレベル上げはしてないです!」といった様子らしい。
そのため、まともな攻撃方法は近接のみ。それでも一撃で敵を倒せるのだから、そちらのレベル上げはちゃんとしていたのだろう。
「MP回復補助のアビリティを優先したのですよ……」
「ああ。魔法が使えないと、レベル上げが捗らないのか。
でも、あのゲームって、戦闘ごとにジョブを切り替えていたイメージがあるんだけど? あと、どんなジョブでも通常攻撃でジョブ経験値を稼いでたはずだけど」
「ゲームのリアル化による仕様変更、らしいです。「魔法使いとしてレベルを上げるなら魔法を使わないとダメです」って、転移前に言われたのです」
「そう言われればそれまでだけどな」
新庄もゲーム由来のギフトを貰っているので、加倉井の状態は何となく理解した。
ゲームだからと、デフォルメされている部分が無くなったのだ。そして難易度が上がってしまった。
現実にレベルは無く、言葉の綾として「レベル上げ」と言ってはいるが、本当にレベルが存在するわけではない。「ステータス」と言って自分の能力を確認できるわけでもない。
そうやって目に見える指標がない中で、加倉井はゲーム知識を基にチマチマとジョブを成長させ、ギフトの強化をしていた。
生き残りがかかっているので加倉井も真面目に取り組むしかなく、今の加倉井はかなり強くなっていた。
加倉井の戦い方は先の先。
先手をとれば蠍の攻撃が当たるようには見えず、新庄が用意した「石の槍」で一突き。それで蠍を確実に殺してまわる。
加倉井が蠍の攻撃を受けるとしたら、不意打ちされるか、複数の敵に囲まれた時ぐらいだろう。しかし今のところはそういった気配が無い。
モンスターの位置が何となく分かる能力もあり、不意打ちを受けることは無い。
食料入手のためだろう。蠍は分散して生息しており、複数に囲まれるようなことも無い。
よほどのへまをしない限り、加倉井がやられる可能性はゼロである。
「オッサン! 足元見えないです!」
「はいはい」
そのへまをする唯一と言っていい可能性。
足場の悪さで躓く危険性は、新庄が松明を使って減らしている。
足場さえちゃんと確認していれば問題ないのだ。
新庄はできるだけ足場を整え、今後、戦いやすくしている。
今は新庄のヘルプが必要だが、いずれ加倉井は一人で戦えるようになるだろう。
新庄は、加倉井の巣立ちを見届けるつもりでいた。