「為政者としては普通すぎて面白味の無い、予想通り過ぎてアクビの出る反応ですね」
「予定通り、国が動いた」
「一年と少し。まぁ、優秀な方ですね」
新庄の確保に、国が動いた。
この話は新庄たちに、すぐに伝えられた。
そうしてシドニーは新庄とお茶を飲みつつ、これからどう動くかを相談ではなく、確認していた。
新庄が動き回れば、いずれ国が目を付ける。
そんな事は分かりきっていたので、事前に対策は練ってあった。
なので、相談ではなく確認なのだ。
「笑える事に、「我々のオアシス」だと言っていたな」
「それ以前に誰が住んでいようと関係ない。国の近くにあるなら、全部自分のもの。
為政者としては普通すぎて面白味の無い、予想通り過ぎてアクビの出る反応ですね」
シドニーは面白そうに、新庄は淡々と、国の動きを評価する。
これからの動きを考えると、どうしてもそうなるのだ。
「一人でも死者が少なくなると良いんですけど」
「それは無理だな。陛下の気性を考えると、かなり被害が出る。避けられるものではない」
大きな戦いになり、多くの人が死ぬ。
新庄が私心を殺して国に尽くすのであれば死ななくていい誰かが、新庄が自由を守るために抗う事で死ぬのだ。
分かっていても、面白い事ではない。
「人の命をなんだと思っている」と、そんなことを言うのであれば、そもそも新庄に手を出さなければいい話で、国がワガママを言わなければいいのである。
それを自国の利益のためだからと、新庄に手を出しオアシスを接収しようとすれば、反撃を受けるのは当然の流れであり、被害を受けるのは国の責任でしかない。
何より、話し合いで解決する姿勢を見せなかった時点で、非は国にあるというのが二人の立場である。
残念ながら、普通は国と一個人が対等などあり得ない。
国の方が上に来るのが常識的な見方であり、強権、武力で個人を従えるのは間違った考え方ではない。
もしも無名の個人に対して国のトップが簡単に頭を下げるようであれば、それは国の品格を下げることになり、周辺国家に侮られて攻められる事にもなりかねない。
この展開は、なるべくしてなったと言える。
「常識人、普通の域を出ない凡夫が王と言うのは悲しい現実だと思わないか。
王たる者、王足り得る者。それには、時に常識に当てはまらない判断を見せて欲しかったのだが」
「情報を、いつ、どうやって伝えるのかは任せていますけどね。あんまり死なせないでくださいよ」
「後の禍根になるから、だな。分かっているとも」
ただ、シドニーは、王が非凡な判断を下すことを期待してもいた。
例えば、表では高圧的に振る舞いつつ、裏ではしっかりと根回しを行い、シドニーや新庄に話をつけて互いに利益が出る流れを作る事もできたのだ。
そうやって自分達の上を行ってくれれば、素直に従う選択もできた。
凡庸な、ありふれた、無難な選択をされたために王への敬意が失われ、シドニーは気持ちが自由になっている。
その為、普段よりも危機意識が低くなり、やや高揚している状態だった。
必要だからやる。そうやって前を向く新庄とは対照的であった。
「初手は兵糧攻めでしょうね」
「こちらの食料の自給率が100%になっているとも知らずにな。無駄だと気が付くまでどれだけ時間がかかるか、見ものだな。連中、一月どころか二月は気が付かんだろうさ」
戦っても勝てる自信があるから、シドニーは戦うと決めている。
「勝てるかも」ではなく「勝てるだろう」と、勘だが、感じ取っているのだ。
「砲撃艦は補給が追い付かない可能性もあります。海の守りが厳しいようなら、早めに動いてくださいよ」
「はっ。それまでに決着を付けるだけだ。
……それまでは、オズワルドに我慢を強いる事になるがな」
新庄はシドニーを落ち着かせるために守りの薄い部分を指摘するが、シドニーは強気な姿勢を崩さない。
ただ一点、船が使えなくなり困るオズワルドの事を思い出し、決まりの悪そうな顔を見せたが。
「独立まで出来ないのが残念だが、楽しみだな」
「私はとにかく、早く終わって欲しいですけどねぇ」
こうして、シドニーは国と事を構える姿勢を見せるのであった。




