「陛下は、臣の忠義に疑念を抱いておられる」
オアシスに荻たちという新たな仲間が合流して、しばらく経った頃。
砂漠の町には不穏な空気を纏った一団がやって来た。
この国の、王の使者である。
「陛下は、臣の忠義に疑念を抱いておられる。
汝の罪は砂漠にオアシスを生み出すと言う賢人を秘匿、独占し、国家への貢献を疎かにした事。
そして国の所有物であるオアシスを私的に保有した事である。
陛下は臣の罪に審判を行い、国を正しき状態にせよと仰せだ」
シドニーは新庄の意を汲んで、新庄たちやオアシスの存在を公にしていない。
その面倒事を引き受ける代わりに、色々と町のために働いてもらう契約を結んでいた。
情報の秘匿のため、新庄の事で嘘の情報を流していたのだ。
町のために働けば、その事でまた情報が広がりやすくなるのだが、何もしなくても情報が広がる事は避けられない。
それに、新庄が一番避けたい状況は、モノ作りの、クラフトのギフト能力について詳細が知れ渡る事だった。
それよりは、「オアシスを生み出すギフト能力」という誤情報を広める方が都合が良かったのである。
なお、一年も情報を隠し通せたのは、この町は国にとって辺境の交易都市だからだ。
国の本体は東にある川沿いであり、交易の中継地点として作られたこの町は、外国との境に近い。
様々な情報が動くため真偽の定かではない情報も多く、荒唐無稽な「オアシスを生み出すギフト能力」等というものが本当に存在するのか信じられなかったので、ここまで放置されてきたのだ。
新庄が小さなオアシス、ため池をいくつも作ってきたからこそ本当の事だと誤認したが、そうでなければ国も動かなかっただろう。
「さぁ、何か弁明があれば聞こう」
王の使者は、居丈高にシドニーを告発する。
その罪を詳らかにし、勝った気分でいるからだ。同行している国の騎士たちの強さを信じているからだ。
そして、自分が道化にすぎないことに、気が付いていないからであった。
「彼は言った。「金の卵を生む鶏がいたとして、肉を食べたいとその鶏を絞める事が、どれほど愚かであるか、考えてみて欲しい」と。
私はこう返した。「考える必要など無い。食べなければ死ぬような状況でもなければ、継続的に金を得られる方が重要だ」とね」
新庄とシドニーの二人は、こんな会話をしていない。
だが、王や使者が愚かであると揶揄するために、回りくどく喋り、貴族としての余裕を見せ付けるように笑顔、いや嗤うような表情を浮かべる。
目先の欲に捕らわれ、長期的な思考ができていない。お前らはその程度の存在だと。
王の使者はシドニーに侮られ、怒りで頬を朱に染めた。
たかが地方の一貴族ごときが、王や王の使者たる自分を「目先の利益しか見えない馬鹿」と言われたのだ。取り繕う事もせず、シドニーを睨み叫ぶ。
「まともに話し合うつもりは無いようですね。
この愚か者を捕らえなさい!」
「やれやれ。野蛮人はこれだから困る。言葉で敵わなければ、すぐに暴力に訴えるのだから」
使者は連れていた騎士たちに命じ、シドニーを捕らえようとした。
対するシドニーは、護衛を務める部下を信じて余裕の表情。
騎士たちはシドニーの護衛を切り捨て、罪人を捕まえようと前に出るが。
「ば、馬鹿な……」
加倉井によって鍛えられた護衛は、騎士を圧倒して主を守りきる。
彼らは誰一人殺さず、格の違いを見せつけた。
「私自身は、国に反旗を翻すつもりなどありません。
あなたの間違いは正しくない情報に踊らされ、罪を捏造した事。
有りもしない、証明一つ出来ない罪。証拠はどこに? 貴君は何をもって私を裁くつもりかな?」
使者は拘束されず、這々の体で逃げ帰るのだった。




