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砂漠の国の、引きこもり  作者: 猫の人
男のオアシス、千客万来
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「シャリーたちに男を紹介すれば、自動的にここに男の住人が増えるんだけどね」

 荻を受け入れることにした新庄だが、それは新庄の都合である。

 一緒に生活している加倉井の意見も聞く必要がある。


 新庄はその場ではまた会う約束をして荻に別れを告げ、加倉井に相談をするため、シドニーに会う約束を取り付けずオアシスに帰った。





「ああ、前に言っていた日本人仲間さんですか。

 んー。ここに住まわせるって言われてもですね、会った事も無い人なので、出来ればお断りしたいかなーと思う訳です」


 荻たちの話を聞いた加倉井は、知らない男が近くに住む事に難色を示した。

 それはごく一般的な反応ではあったが。


「シャリーたちに男を紹介すれば、自動的にここに男の住人が増えるんだけどね」

「うぅ、それを言われると辛いのです」


 シャリーたちの旦那様候補がここに来るというのなら、結局は同じ話である。

 新庄が人格を保証する荻たちが来るのか、それともシドニーの都合が絡んだ誰かが来るのかの違いである。

 加倉井はどちらかと言えば新庄が勧める荻たちの方がまだマシなのかと、とても嫌な2択に唸って抵抗できないかと考える。そしてすぐに、自分が我が儘を言っているだけだと自覚して黙る。


 それでもせめてもの抵抗として、加倉井は荻たちと町で会って話をする事にするのだった。





「へー。真姫奈ちゃん? 可愛いねー」

「あー、その、荻、さん?」

「そうそう。よろしくね」


 荻たち全員と顔を合わせれば、人数差もあり、加倉井は圧に押されてしまうだろう。

 荻たちは女の子を大勢で囲むような真似をしたくないので、代表である荻だけが加倉井と話をする事にした。


 しかし、相手が一人でも加倉井は荻との会話で圧倒されていた。

 加倉井は警戒心の強い猫のようなもので、初見の相手とは距離を取って様子を窺うような真似をする。


 対する荻は、パーソナルスペースという言葉を知らないかの如く、誰とでも距離を詰める。

 空気を読めないのではなく、敢えて空気を読まない。

 常にそうでは相手に嫌われてしまうが、時には強引に相手へと踏み込み、名前を呼び、仲良くしようと笑いかける。



 悪い人とは思わない。

 だが、荻は加倉井の最も苦手とする種類の人間であった。



「えっと、その、荻さんは……」

「うん。何かな?」

「そのー」


 加倉井は混乱する頭で荻との会話を試みるが、言いたい言葉が上手く出て来ない。

 加倉井はつかえつかえの喋り方になるが、それでも荻は根気よく会話に付き合い、相槌を打ち、時々自分からも踏み込んだ質問までして、場の空気が悪くならないようにする。


 そして。


「ヨロシクオネガイシマス」

「あはは。真姫奈ちゃん、片言でロボットみたい!」


 会話における経験値の無さから、加倉井はその場で荻たちを受け入れる事を決めてしまうのであった。



「荻君……」

「分かってますよー、新庄さん。悪い事をするわけじゃないんだから、これぐらいは大目に見てくださいよ」


 新庄はそんな荻に何か言おうとするが、荻も悪意をもって騙したとか、丸め込んだわけではない。

 ただ、今後の活動を円滑にするため、ほんの少し、加倉井にお願いをしただけだ。

 それが分かっているため、強くは何も言わなかった。



 こうして荻たちのチームはオアシスに定住する事になったのである。

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