「交易でこの国を助けるっていうのはアリだろうな」
「荻さんらか……。久しぶりだな」
荻たちは久しぶりのホームタウンが、かなり荒らされている事に愕然とした。
遠い他国の戦争など、他人事だと思っていたのだ。影響が出ている事に驚きを隠せない。
「遠くの戦争で発生した難民がな、隣の国に流れ込んだのよ。
で、そいつらが盗賊になって隣の国が荒れて、そこでまた難民が発生して、ここまで襲われるようになったって訳さ」
「マジかよ……」
「この辺でも、畑を荒らされて食い詰めた農民が盗賊になったって話も聞いた。まったく。戦争なんて、ロクなもんじゃないな」
戦争によっておこる負の連鎖が止まらない。
戦争をしてる国があるというだけで、陸続きの周辺国家は全て巻き込まれる事になる。
一部の国は国境を封鎖し、人の出入りを制限しているという。
難民が無断で国境を越えようものなら、皆殺しという厳しい措置をとる国もある。
それほど、事態はひっ迫していた。
「荻ちゃん、もうこの国を出てさ、砂漠の方に移住しねぇ?
あの国なら、まだ大丈夫だろ。居心地も良かったしさ、新庄のオッサンもいるし、引っ越しも視野に入れた方が良くねぇ?」
「賛成。ここの人を見捨てるのも悪い気がするけどさ、やっぱ自分らの安全が第一っしょ。
どうしても気になるなら、連れてくのもアリじゃね」
「だよなぁ。それに俺ら、優秀じゃん。国に徴兵される可能性も有るんじゃねーか?」
帰ってきたばかりではあるが、荒れてしまった町を見ると、一部の仲間がまた砂漠に行きたいと言い出した。
それも仕方がないだろう。盗賊との交戦、そして殺人も経験している彼らだが、積極的に人を殺したいとは思わないし、人を殺す事への抵抗感を失っていない。
モンスターとの戦いはギフトの兼ね合いもあるので仕方が無いと割り切れるが、対人戦は避けられるだけ避けたいという思いがあった。
「でもさぁ、多少はこっちで稼いでからの方が良くねぇか? 向こうで良い生活ができたのって、金があったからだろ。
その金は、こっちでモンスターを狩って、素材をストックしたからだろ。あんま長居するのは、確かに止めといた方がいいと思うぜ。でも、ちょっとはこっちで頑張らなきゃダメだろ」
「それなら砂漠で買ってきた物を、一回全部売っちまうのも手だよな。もともと売るつもりの物もそうだけどさ、自分らで使うつもりの物も売ってさ。
で、砂漠でまた少し稼いで、またこっちに来て。その方が効率がいいだろ」
他にも、すぐに逃げるのではなく、金稼ぎをしてから動いた方がいいという意見もある。
物品を大量に、しかも時間停止をして運べる彼らは、商人として高い適性を持つ。
それを利用し、金稼ぎをしないかと考える者もいた。
彼らは、ここと砂漠の往復だけでかなり稼げたことに味を占めていた。
楽して稼ぎたい。
そこまでは言わないが、ハイリスクハイリターンの貿易に、大きな魅力を感じている。
治安の悪化した街に留まるリスクを度外視して、儲け話に飛びつこうとしていた。
北の国に残り、人殺しの果てに英雄になるという意見は出なかった。
彼らの生まれは日本であり、帰属意識もない国の為に人殺しなどしたくないし、命をかけたくもない。
「交易でこの国を助けるっていうのはアリだろうな。ただ砂漠に移住するんじゃなくて、この国の為に砂漠まで買い付けに行くんだよ。それが俺らにしかできない助力って奴だろ。
ただ、俺らのギフト能力はモンスター退治をしないと消えるって話なのを忘れるとマズい。新庄さんの所にいる神谷って人は、それでギフト能力を失ったって話らしい。商売にのめり込むと、俺らも同じ事になりかねない。
こっちで少しはモンスターと戦って、それから移動するのがベターだろうな。何もせずにまた砂漠に向かうと、その途中でギフト能力が無くなりかねねーぞ」
荻が意見をまとめ、建前を用意しつつ、自分たちの為に彼らは動き出した。




