「帰ったら、またトレントの相手だよな。感覚が狂ってないといいけど」
荻たちは、奏が魔王になるかなり前に元の国に帰っていた。
彼らのバカンスは終わったのだ。
手持ちの売り物を売り終え、砂漠の固有種を大量に確保しての凱旋だ。町では豪遊していたにもかかわらず、金銭的には大きな黒字である。彼らの顔はとても楽しそうである。
「いやー、あのオッサン。あの人が付いて来てくれたら最高だったんだがなー」
「たまの贅沢だからいいんだよ。毎日なら飽きるだろ。次の休暇が楽しみってことでいいんじゃねーの?」
「それもそっか」
彼らは美味い飯を食って、美女を侍らせられれば幸せな俗物である。
幸せの種がそこらに転がっているような、幸せな連中だ。
並みの人よりも大きな力を手にいれているが、社会性があるし、善人である。何かある度に目の前の楽しい事に目が移ってしまうが、それでも周囲と上手くやっていた。
そんな彼らの一番の関心事は、新庄に作ってもらった料理を、いつ、どのタイミングで食べるのかという事だ。
大量に作ってもらったとはいえ、考えもなしに食べていれば一月と持たない。次に補充するのは半年ほど先の話なので、計画的な消費が求められた。
「帰ったら、またトレントの相手だよな。感覚が狂ってないといいけど」
「最初は調整した方がいいよな。ノルマは少なくしないと」
「俺、トレントよりも、牛の相手がよかったな。売れなくても、その場で食えばいいだけだし」
「あー、そう言えば、戦争の噂もあったよな。ちゃんと間引きされてるのかな? 人手が戦争にとられて、なんて事になってなければいいけど」
そして、帰った後に待っている仕事の話も出る。
彼らは砂漠に行くまで、トレントと言われる樹木型モンスターをメインで狩っていた。
そして砂漠では小銭稼ぎに、牛のモンスターと戦っていた。
両者はモンスターという共通点以外、何もかもが違う。
戦闘の感覚が狂っている可能性が高く、感覚の調整が終わるまで、慎重に動かねばならないと気を引き締める。
……一部の者は。
「大丈夫だって。トレントって、あんまり動かないし。一月分のブランクぐらい、誤差よ、誤差」
「そうそう。遠くで戦争の噂もあるけど、ちょっと離れた国みたいだし? そこまで変な事にもなってないだろ」
彼らは全体的に、楽観論が多い。
暗い気持ちでいるより、明るく笑い飛ばす方が良いと考えているからだ。
場の空気が重くならないように、互いに意識している。
「そうだな。細かい事は帰ってから考えるか」
そうして国に戻った彼らが見たのは、盗賊の被害を受けた、荒れた町や村だった。




