「ま、一応、これも実験だから」
意識を失った奏を、新庄は回収した。
これについては、ただの偶然である。新庄は殺すつもりで戦っていた。あれから丸一日経っており、さすがに死んだだろうと思っていたのだが、まだ生きていたのだ。
そして、回収したのも助けるためではない。
「成り立てでも、魔石はあるんだな」
奏の魔石を手に入れるためだ。
新庄は腹の辺りにあった魔石を取り出した。
そうして、ものすごく嫌そうな顔をしつつ、二つのアイテムを取り出す。
「ま、一応、これも実験だから」
新庄は奏から距離をとると、小瓶を奏に投げ付けた。
奏の顔の近くで瓶が割れ、中身が気化し、奏に衰弱の状態異常を与える。
新庄はそれを見届けてからもう一つのアイテムを持って、奏に近づく。
新庄が用意していたのは、磨り下ろしたリンゴ。
ただし、そのリンゴの皮は黄金である。
大量の金とリンゴで作る、ゾンビを人間に戻す効果のあるアイテムだ。
新庄はそれを奏の口の中に無理やり流し込む。
上手くいけば、これで奏は人間に戻るかもしれない。
これはそういう実験だった。
新庄は、遥や奏を殺したいほど憎んでいる。
だが、二人への感情は殺意だけではない。助けたい、やり直したいという気持ちも、全く無いわけではなかった。
新庄本人は無自覚で、色々と言い訳をしながらこんな事をしているのも、それが理由だ。
人間の感情は複雑怪奇で、一元的なものではないし、本人だって完全に自覚している事もない。
無自覚な悪意で人を傷つけることもあるが、無自覚な善意で人を助けることもある。
奏ではなく、加倉井やその仲間が魔物化したときに、助けられるかどうかを調べておくのも悪くない。
新庄の表層的な意識は、そう考えている。
実験が失敗する可能性を考えながらも、できることを把握しようとしているつもりだ。
助かった後は、ジュードに預けるだけ。
自分には関係ない。
だから、どうでもいい。
新庄の本心は、新庄にも見えていなかった。




