「地下にモンスターも出るわけか」
新庄にとって加倉井は、「同じ境遇の他人」で「娘と年の変わらない女の子」である。
一人よりも二人の方ができる事が多いのは自明の理である。
しかし、元からソロでやっていくつもりであった新庄に仲間は不要で、加倉井が本当に一人でやっていけると思えば、距離を詰める気にもならないはずであった。
新庄も現状に対応しきれているとは言い難いが、加倉井はそんな新庄がここでやっていけるのか不安に思うほど残念で、まだまだ手助けがいるように感じられる。
貰い物の食料があるうちはまだ良いが、いずれそれも無くなる。
そうなった後、ギフトを使いこなせていない加倉井が生きていけるようには見えなかった。
新庄に加倉井の事情は分からないが、おそらくは自分と同じように、他人と距離を取りたかったのだと考えていた。
加倉井のギフトのことを考えれば、仲間がすぐに集まる場所を選ぶ方が効率が良い。
そういった選択をしなかったとなれば、そうせざるを得ない何らかの理由があったのだろう。
新庄は同僚たちと同じグループでやっていけるのならともかく、自分より一回りか二回りも若い世代と一緒にやっていけるビジョンが見えなかった。
ギフトというチートな力がある以上、年上の経験値というアドバンテージは無きに等しい。人生経験が役に立たないかと言えば実際の所はそうでもないのだが、目に見える力に浮かれている様子の若者たちが相手では楽観視ができない。
下手をすると、若さが無い分、奴隷のように扱われる可能性の方が高いと踏んでいた。同じ場所から始めれば、同調圧力を使ってそうなるように仕掛けてくることも警戒しなければいけなかった。
だから新庄はおそらく誰も選ばないだろうという理由で、砂漠を選んだ。
他の誰かがいないところで始めた方が、自由にできるだろうから。
多少の不便を織り込んで、新庄は自由を選択したのである。
では、加倉井の事情はどうだろうか?
新庄が予測するに、加倉井の事情は男性恐怖症のようなものが原因ではないかと考えられた。
ただ、予測はあくまで予測でしかなく、確証はない。
そして新庄は無理に話を聞くなどして本人に確かめる気も無いので、加倉井が話す気になるのを気長に待つつもりであった。
この手の話で無理をしてはいけない。
最近の会社ではパワハラやモラハラといった事に敏感で、会社員であった新庄もそういった事には慎重な姿勢を見せる。
これでもしも緊急性のある問題であれば話が変わるが、そうでないなら時間をかけた方がいい。信頼関係を築くのが先。そういった認識であった。
一般的会社員の感覚として、新庄は慎重な行動を選んだ。
そもそも、新庄も自由にやりたいと思っていた事もあり、最低限として毎日の挨拶をする事、可能なら一言二言、前日の成果について話をする。
そうやって徐々に信頼を積み重ねていこうとした。
そして、10日目。
「地下にモンスターも出るわけか。弱そうで助かったな」
地下で穴を掘り進めていた新庄は、とうとう初めてモンスターと対峙するのであった。