「いったい、何をして、彼にあそこまで憎まれている?」
新庄にとって、元家族の二人は、明確な「敵」だ。
ただしその根拠となる裏切りは、既に法で裁いている。これ以上の手出しは、法の正義の下では正しくない。
その後の新庄に残った感情は、「拒絶」だけ。
二度と顔を見たくない。声も聞きたくない。
それが新庄の結論だった。
「ジュードさん、でしたね。残念ですが、その護衛を連れている以上、貴方と話し合いをする気にはなりません。申し訳ありませんが、護衛を入れ替えてまたお越しください」
新庄は笑顔でジュードに応対しているが、その目はとても冷たい。客へ向けていい目ではない。
だが、新庄にしてみれば、ジュードとの取引など、どうでもいいのだ。オズワルドとの取引すら、失くなっても構わない。
それよりも、視界の端にある顔が無くなる方が優先された。
「そうか……。では、日を、改めよう」
そんな新庄の雰囲気に飲まれたジュードは、なんとかそれだけ言葉を返す。
新庄が放つ「圧力」は大商人として鍛えられたジュードの胆力でも耐えられるものではなく、声を出せただけでも凄い事だった。護衛のはずの奏は、顔を青白くして何も言えなくなっている。
それだけ新庄の裡にある感情が恐ろしかったのだ。
ジュードは結局、新庄となんの話もできずに砂漠から出ていった。
聞いていたのと話が違う!
ジュードは町で集めた新庄の情報と、実際に見た新庄との差異に呪いの言葉を叫びたくなるが、それを飲み込み、頭を働かせる。
「お父さん」「奏」という発言が聞こえていたので、自分の護衛と新庄の二人が知り合いだった事は明白だ。
そして、その関係が最悪という事も容易に思い付く。
ジュードはチラリと、一瞬だけ護衛に視線を向けた。
見た目は普通の娘だが、母親の近くでならかなりの強さを発揮するギフト能力持ち。魔法封じの腕輪にお仕置き用の首輪をつけた、買って間もない奴隷の娘。
使えるので連れてきたが、今回ばかりは失敗だったようである。
まずは正しい判断をするために、多くの情報を仕入れる必要があった。
「あのシンジョウという男について、知っていることを洗いざらい吐いてもらおうか。
お前は、彼に何をしたのだ?」
ジュードは奏が奴隷にされた、その理由も確認していなかった。
奴隷本人の言葉など信用するに値しないし、確認する意味がなかったからだ。
だが、その因縁がジュードの足を引っ張るのなら聞かねばならない。
「いったい、何をして、彼にあそこまで憎まれている?」




