「ここでもなんとかなるギフトを選んだんです! ……仲間がいれば」
新庄と加倉井、二人はお互いの能力を完全に把握しているわけではない。
新庄が加倉井に配慮して、距離をおいているので、理解しあう時間がないのだ。挨拶や話し合いすらせず、姿もほぼ見せないとなれば、相手の事を分かるはずもない。
それでも問題ないのは新庄の話で、加倉井はそこまで生活に役立つギフトを使っていなかった。
「無い」ではなく、「使っていない」だ。
加倉井のギフト、そのうち生活に使えそうなものは、加倉井が忘れていた使用条件があったのだ。その為、生活が苦しくなっている。
加倉井は新庄に頼ることで生活の根っこを押さえられた場合、逆らえなくなるのではないか、そうなれば体を求められるかもしれないと、ずっと警戒している。
だからこれまでは我慢していたのだ。我慢するために無視していたのだ。固い干し肉をそのままかじり、生きていたのだ。
しかし新庄が地下を掘り進めて魚を手に入れ、火付けの要らないかまどを持っていると知ってしまった。新庄のギフトの有用性を知り、とうとう無視できなくなってしまった。
一度生活レベルをあげてしまえば抜け出ることは叶わず、加倉井は自力で生活できるようになるまで新庄に面倒を見てもらうことになった。
「悔しいのですー。こんなはずじゃなかったのにー」
「砂漠を選んだ時点で、普通のギフトは詰むぞ。むしろ、何でここを選んだんだか」
「ここでもなんとかなるギフトを選んだんです! ……仲間がいれば」
加倉井のギフトは、シミュレーションRPGのものだ。その中には拠点を製作し、アイテムを作るという内容も含まれる。
ただ、ゲームでは最初から仲間が用意されていて、その仲間に仕事を振れば良かったのだが、ここにいるのは加倉井と新庄だけだ。仕事を振る相手がいない。
ここで新庄が仲間になったところで、新庄にも自分の都合があるので、加倉井のために一から十まで付き合うことはできない。そもそも人数が足りない。
それが分かっていたから、新庄を仲間にする選択肢はなかったのである。
「ま、なんにせよ、加倉井はボッチから抜け出す必要があるわけか」
「そっちはずっとボッチ生活する気です!?」
「そのためのギフトだからね」
二人はモンスターの間引きを行うために、日本から連れてこられた。
いつまでもここで平和な生活をしていられるわけではない。
だが、そのために求められるもの、進む道は全く違う。
加倉井は仲間を集め、彼らを率いて戦う道を選んだ。
新庄は食料や武器の供給がメインである。
道は交わり重なる部分もあるが、同じではない。協力すれど、並びはしないのだ。
そして新庄は、モンスターだけでなく、人と戦うことを視野に入れている。
いずれ人を殺すこともあるだろう。
新庄は、おそらく無意識にその事から目を逸らしている加倉井に、可哀想なものを見る目を向けていた。