「しばらくはここでゆっくりと体調を整えてください」
翌朝。
夜中に目が覚め、そのまま眠れなかった女性は、悩み疲れた顔で新庄と顔を会わせた。
新庄は体を起こそうとした女性に、ベッドに寝たままでいてくださいと声をかけ、自分はベッド横の椅子に腰かけた。
「このオアシスで暮らしている、新庄 祐です」
「神谷 美子、です。助けていただき、ありがとうございます」
これからどうなるのか。
情報が一切無く、不安に怯える神谷を見て、新庄は少しでも安心してほしいと思い、笑顔で自己紹介をした。
倒れていた女性、神谷はまだ体調が良くはないだろうと思えば、多少の優しさを見せようとする。
夜中から眠れず、先を考えれば悪いことしか思い浮かばなかった神谷は、見た目でわかるほどやつれている。
金銭的な問題により、最近はきちんと食事をとれていなかった事も、神谷の病的な雰囲気を強めていた。
自分がどんな顔をしているのか自覚の無い神谷は、新庄の笑顔に緊張を解き、お礼を言った。
そのときは頭を下げようとしたが、新庄がそれを止め、無理をしないようにと言い含める。
拾ってくれたのだから悪い人ではないだろう。そう思っても、拾ってくれた人の家族から疑われることも覚悟していたのだ。
気遣う新庄にそういった様子がないので、神谷はようやく人心地つく事ができた。
「しばらくはここでゆっくりと体調を整えてください。
それと、神谷さんをここに連れてきた、加倉井と言う子がいるんですけどね。お礼はその子に言ってもらえませんか。きっと喜ぶので」
新庄は、病み上がりなのだから最低限の話だけをして、直ぐに退室しようとする。
女性の病室に男の自分が長居するのは良くない。そんな常識的な判断だ。
だが、新庄が腰を浮かせたところで神谷がそれを引き留めた。
「あの、新庄さんは日本人で、同じ転移者ですよね?」
「ええ。今回、貴女を助けたのは、そういった縁があったからですね。でなければ、助けなかったと思います」
状況が分からないのだから不安で、情報収集のためにもう少し話をしたいのだろう。
病み上がりで辛そうな神谷にここで無理をさせたくはなかったが、心情を慮って、もう少しだけ話をすることにした。
神谷は話があるそぶりを見せたが、直ぐには話し出そうとはしなかった。
何か、言い難い事を言おうとしている様である。
沈黙の中、新庄は椅子に座り直し、何をどこまで話そうかと考える。ギフト能力の詳細など、基本的に秘密にしていることが多いので、情報開示には慎重だった。
自分の中での線引きを終わらせた新庄は、相手が話しやすいようにと、微笑みながら神谷の言葉を待つ。
「その、お恥ずかしい話ですが、私はギフトを失っていまして……。今はお金を稼ぐ手段がありません。
それで、何か、仕事を紹介していただくことはできませんか?
こちら側にはロクな伝手もないので……。身勝手とはわかっています。ですが、同郷のよしみで、どうか、お願いします!」
そうして神谷を待って出てきたのは、新庄の予想から斜め下の発言であった。
「お願いします」と言いながら、体を起こして頭を下げる神谷を止める機を逸するほど、新庄は驚かされた。
「……領主や商会に伝手があります。事務仕事など、どうでしょう?」
新庄は、なんとかそれだけの言葉を絞り出した。
初対面の相手に、この人は何を頼んでいるのだろう?
そこまで食い詰め、追い込まれているのだろうか?
それとも、ただ単に、この人には常識が無いのだろうか?
神谷という人間が分からず、新庄は困惑するのであった。




