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砂漠の国の、引きこもり  作者: 猫の人
男と少女の2人ぼっち生活
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「火は? 火は、どうやってつけたんです?」

 砂を集める。

 砂を砂岩にする。

 砂岩で家を建てる。


 穴を掘る。

 階段を作る。

 松明を作る。


 砂を焼いてガラスを作る。

 ガラスで板を作る、瓶を作る。


 新庄は、そんな生活を1週間ほど続けていた。



 新庄は鉄が欲しかったが、地下50mの深さに鉄の鉱脈はなく、ひたすらに穴を広げるだけの結果に終わった。

 1週間の間に一回だけ雨が降ったのだが、その時は穴が完全に水没し、地下に掘り進めていた通路は水路へと変わってしまった。

 新庄は地下に生活空間を作る計画を考えていたが、雨が降っただけで簡単に水没するようでは危なくておちおち寝てもいられない。地下に生活空間を作る計画は白紙になるのであった。





 そんな生活も、8日目にしてようやく進展を迎える。

 新庄がいつものように穴を掘り進めていると、天然の洞窟、大きな地下空間に繋がったのだ。



「おお、水脈がある! 苔が生えてる! 魚もいる!!」


 地下空間は岩の裂け目のような場所で、谷のように深い穴だった。

 地下空間はずいぶん昔からあるようで、そこに溜まった水に魚が泳いでいるぐらい、一つのバイオーム(生物群系)を形成している。

 流石にここでプランクトンが魚に進化したわけではなく、どこかから紛れ込んだのだろうが、それでも魚が生きていける程度の環境が整うだけの時間があったという事である。


 新庄は久しぶりに見る生の魚に興奮し、魚と苔を魔導書に回収していく。

 魚が食用可能であることは魔導書が教えてくれる。魔導書は地味に便利である。



「苔があるなら、ライトパウダーでヒカリゴケにしたいけど……。先は長いな」


 ライトパウダーは、光る砂の事だ。

 ゲームでは苔と合成することでヒカリゴケになり、ヒカリゴケを暗所で繁殖させると、ヒカリゴケからライトパウダーが回収できるという仕組みだ。

 類似品はあるようなので、新庄は早く生産環境を整えたいと考えるが、素材の少なさが足を引っ張る。


 人のいない砂漠を選んだ事もあり、ゲーム以上に序盤の不自由さが重くのしかかっていた。





 地上に戻った新庄は、この日の戦果、焼き魚を加倉井におすそ分けすることにした。

 かまどで焼いた魚に塩を振り、一緒に食事をしようというつもりである。


 ここに来てしばらく経ったが、二人の距離はかなり遠い。

 初日から今まで、一緒に食事をした事など無いし、会話も最低限だ。新庄は毎日挨拶をするようにしているが、加倉井はそれを無視する事すらある。

 窓に嵌めこむよう、ガラス板を持っていった事があったが、その時も事務的な話しかできず、塩対応と言っていい。



 今のところ、新庄は「子供のする事だから」と考えており、怒る様子はなかった。

 むしろ、見ず知らずの男にちゃんと警戒心を持っている事を感心している様子である。

 ただ、いざという時の事を考えると、ある程度のコミュニケーションを取っておくべきだとは考えていたが。



「加倉井さん、ちょっといいかな?」


 夕方。新庄はちょうど外にいた加倉井に声をかけた。

 加倉井は新庄の方に顔を向けるが、警戒している様子で、返事をしない。


「地下で魚を見付けてね。焼けば食べることができそうだから、お裾分けをしようと思ってね。焼いた物を持ってきたんだけど、食べるかい?」

「焼いた?」


 そんな加倉井の様子をあえて気にしていない風を装い、新庄は笑いかける。

 こういった態度が胡散臭く、警戒心を煽るのだろうなとは思うものの、新庄はそのままの態度を続けている。

 途中で態度を変える方が、もっと胡散臭いからである。



 加倉井は、そんな新庄の言葉の中から、聞き捨てならない単語を拾った。


「火は? 火は、どうやってつけたんです?」

「ああ、全然話ができていなかったからね。教えてなかったけど、クラフトの能力でね、かまどに燃料と焼きたいものを入れると、自動で火が付くんだよ」

「なっ!?」


 新庄の言葉に、加倉井は崩れ落ちた。

 この数日間、ずっと火の無い生活をしていたらしい。



 焼き魚を食べた加倉井は、この日から新庄と会話をするようになったという。

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