「だって、あなたと一緒にいても、面白くないもの」
新庄祐は、バツイチである。
嫁とは高校で出会い、2年の夏休み前に付き合い始め、大学卒業後に入籍。2年後には子供ができた。
地元の大手企業に就職して順調に出世し、40歳前で課長に昇進。
嫁は専業主婦だったが家事を手伝い、子供の面倒も見た。家族サービスは欠かさず、2ヶ月に一回は家族を旅行に連れて行く。
周囲からは、良き夫であり、良き父親だと思われていた。
そこまでは順調だったのだ。
否。
そこまでは順調だと、新庄祐が信じていただけだったのだ。
裏で、最愛の嫁が浮気をしていたのだから。
全ては偽りだった。
何も順調ではなく、
「だって、あなたと一緒にいても、面白くないもの」
「新しいお父さんの方が良い。若くてかっこいいし」
最愛の嫁は、裏切者だった。
大切に育てた娘は、父親を捨てた。
5年も浮気をしていた嫁は、マンネリ化した日常に刺激が欲しくて浮気をした。
最初はいつバレるかとヒヤヒヤしていたが、全く気が付く気配がない夫に失望し、そのまま愛想をつかした。浮気の背徳感はすでに消え去り、浮気する事が悪い事とは思えないほどそれが当たり前になっていた。
だから夫に何も期待せず、ただのATMと思うようになっていた。
ようやく気が付いたのか。夫に浮気を糾弾されても、そうとしか思わなくなっていた。
母の浮気を知った娘は、母に同調した。
父親は面倒見が良いと言えば聞こえが良いが、娘にしてみれば過干渉のように感じられたのだ。
“家族旅行に連れて行く”という親との予定が友達の誕生日とバッティングしたことがあり、友達よりも家族を優先したことがあった。それで友達が離れていった。この事は相談もせず自分で判断した事だが、それでも自分の責任と思いたくなかった娘は、父親を悪者にした。
もっと距離を取って、深く関わらないで欲しかった。自由にさせて欲しかった。
娘は父への不満の分だけ、新しい父親に期待した。
娘の親権は放棄、二度と会わない。浮気で慰謝料を受け取らない代わりに、養育費を払わない。
新庄は引っ越して、電話番号を変えて、元家族と完全に縁を切った。
許せなかった。
愛していたのに、裏切られたのだから。
怒りは、憎しみは、愛の深さを超えてより深く新庄に刻まれた。
愛していたからこそ、許せないのだ。
風の噂で元嫁が浮気相手に捨てられただとか、そんな話が聞こえてきても心が動かない。
ざまぁみろとも思わない。二人への怒りと憎しみは凝り固まったままである。
復讐しようとは思わないのだ。
ただ、絶対に、生涯許さない。
それが新庄祐の、魂に刻まれた“誓い”である。