よめしべ長者 ~戻ってくれと言われてももう遅い。交換された嫁はしたたかにざまぁみろと微笑む~
昔々、とても貧乏な男がおりました。男は大工でありましたが、怪我により仕事にもありつけず、毎日野草をとって暮らしておりました。
ある日のこと、道すがら倒れる老人を、男の妻が介抱しておりました。
「すみません、急に具合が悪くなり申しまして……」
男の妻は懸命に老人の背中をさすっており、暫く様子をみると次第に具合は良くなっていきました。
「ありがとうございます。貴女はとても素晴らしい人だ。私の妻と交換したいくらいだ」
老人が笑いながら言いましたが、男は口数も少なく地味な妻に飽きていたので、これを真顔で承諾致しました。
男の家に老人の妻がやってきました。多少年老いてはおりますが、料理が上手く、品のある女性でした。
男は喜び、友人を招いて手料理を振る舞いました。すると、友人の一人が妻の手料理を食べて、酷く涙をこぼして泣き始めました。
「このような美味い飯は初めてだ……!! 是非ともウチの妻と交換したい!」
友人の妻を知っている男はこれ幸いと、直ぐさまこれを承諾しました。
男の家に友人の妻がやってきました。とても若く、着物の裾から見える脚がとても美しい上に、言葉数も多く、笑うとえくぼの出来る可愛らしい女性でした。
男はとても喜び新しい妻を迎え入れました。しかし、新しい妻は家事がまるで出来ずに男が全てやる羽目になってしまい、見た目が良くとも、男は次第に新しい妻を疎ましく思うようになりました。
そこで男は近所で評判の、出来た嫁の居る家へと向かい、妻の交換を持ちかけました。
お互い喜んで承諾し、その場で妻を交換しました。
新しい妻は肉付きの良い姉さん女房でした。料理、掃除もそこそこ的確に熟し、ご近所付き合いも良く、とても評判でありました。
男はこれで楽を出来ると思い、ブラリと出掛けようとしましたが、不意に首根っこを捕まれました。
「アンタ……仕事は?」
凄まじい気迫で迫る新たな妻に、男は一瞬で竦み上がりました。
「さっさと仕事探してきな!!」
新たな妻は、カカア天下だったのです。交換を後悔した男は先程の家へと駆け込もうとしますが、家の戸は堅く閉められ、中では仲睦まじそうに笑い合う声だけが聞こえておりました。
そこで、男は町一番の呉服屋へ向かいました。そこは女主人が敏腕を振るう店であり、ここなら働かずとも済むと思い、縁側で暇を持て余している女主人の夫に声を掛けました。
夫は喜んで妻の交換を承諾し、ついでに家も交換致しました。男は店先で笑顔を振る舞い、着物を薦める円熟味のある女主人を見て、とても満足致しました。
夜になりました。新たな妻と二人きりになると、妻はキセルをふかし、男の手にキセルを打ちました。
「役立たずの情けない男め。猫の手以下の穀潰しが……!」
その日、男は夜通し罵倒されつづけ、こんな筈ではとむなしさが込み上げました。なんと女主人は裏表の激しい気性の荒い女だったのです。しかし男は楽をするために、じっと堪えて朝を待ちました。
朝になりました。丁稚や日雇いが店の支度を始めます。その中に、男の最初の妻の姿がありました。
「……!?」
妻はあれから交換され続け、やがて貰い手もなくなり、仕方なく女主人の店で働いていたのです。
「ノロノロするな! さっさと働け!!」
女主人の罵倒にも笑顔で応え、手にあかぎれを作りながらも、せっせと働く妻の姿を見て、男は自分の愚かさを知りました。
「行こう。俺が悪かった」
男は直ぐさま妻の手を取り、呉服屋を飛び出して、町をも抜けました。
男は新たな土地で、最初の妻と家を借り暮らし始めました。わらを編んでわらじを作り、売り歩き、昔より貧しいながらも男の編んだわらじは持ちが良いと評判になり、地道に小銭を増やしていきました。
男は小銭が貯まると大工道具を買い、元の大工を始めました。
怪我により仕事は中々進みませんが、慎重丁寧で几帳面な男の仕事はやはり評判を呼び、順番待ちが絶えなくなりました。
男の妻は家で寡黙に男の帰りを待ちました。
男が帰ってくると不器用ながらも手料理を振る舞い、笑顔で食べる男の顔を幸せそうに見るのが幸せでした。
かつて自分を捨てた元旦那達、そして、かつての元嫁達を想像し「ざまあみろ」と微笑む──ような事は決してしませんでした。
読んで頂きましてありがとうございました!
(流行に乗りたかったんだ…………!!)
(*´д`*)