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短編ショートショート

友達ロボット

作者: 灰庭論

 エフ氏が長年に渡って開発に取り組んできたヒト型ロボットが、テストを終えて、ついに実用化された。しかし各メディアで大量のコマーシャルを打ったにも係わらず、販売は奮わなかった。


 結果が出る前までは「世紀の発明」とか、「人類はついに生涯の友を得た」などと持ち上げられたが、売れないとみるや「生涯の友がロボットである必要を感じない」と手の平を返すのだった。


 世間からの酷評に耐え切れなくなったエフ氏は、悩みを聞いてもらおうと子供の頃からの友人に会いに行った。


 その友人は郊外に一軒家を構える一般的なサラリーマンで、ロボットに関する知識を一切持ち合せていなかった。しかしエフ氏にとっては、それが気分転換にちょうど良かったのである。


 リビングでコーヒーを飲みながら友人が言う。


「偉大な発明家を友達に持つことができて幸せだよ」

「僕一人の力ではないんだ」


 その謙虚な態度も友人を誇らしくさせるのだった。しかし、その表情から悩みを抱えていることを見逃さなかった。


「長年の研究が報われたようには見えないが、何かあったのか?」

「いや」

「ロボットが人間に暴力を振るったとか?」

「それはない」


 厳しい審査をクリアしているので、自信を持って答えるのだった。


「反対に、人間がロボットに暴力を振るうとか?」

「そのような報告は、まだ受けていない」


 その答えに、友人が微笑む。


「安い買い物じゃないことを失念していたよ」

「安くはないが、かといって、高くもないはずだ」

「性能は人間と変わらないんだって?」

「なんでもできるのが売りなんだ」


 だからエフ氏には販売不振の理由が分からないのである。


「見た目も人間と区別できないというじゃないか」

「ヒト型に拘ったからね」


 だから友人も分からない。


「それで、どうして落ち込んでるんだ?」

「さっぱり売れないからさ」


 そこでエフ氏が言い直す。


「いや、正確に言うと、予約は好調だったが、返品が多くて困っているというわけさ」


 友人が尋ねる。


「返品理由は?」

「やっぱり所詮はロボットだから、友達とは思えないようだ」


 興味を持った友人が身を乗り出す。


「具体的な販売方法は?」

「性格が異なる三種類の中からお客さんに選んでもらうんだ」


 それを聞いた友人が閃く。


「現在の状況を好転させることができるかもしれない」

「いや、これ以上は新しいロボットを増やせないよ」

「その必要はないんだ」

「え? ならば、どうやって?」

「売り方を変えるだけでいいんだよ」


 アドバイスを受けたエフ氏は半信半疑であったが、友人の言葉通りに実践すると、返品が減少し、売り上げが飛躍的に伸びたのだった。


 会社の社長室に呼ばれたエフ氏が質問を受ける。


「これは一体、どんな秘策を用いたというのかね?」

「友人が助言してくれたおかげです」


 社長が喜色満面の顔で尋ねる。


「その助言とは?」


「お客さんに販売する際、『三種類のうち一体は本物の人間だ』と言うんです。それで、もしも選んだのが人間ならば購入を諦めてもらうように約束します。その取り決めを事前に交わしておくだけで必ず売れると言いました」


 社長が驚く。


「それだけ?」


「はい。実際は三種類ともロボットなので、どれを選んでも結果は同じなのですが、なぜか皆さん、満足するんですね、販売当初から性能は何も変わっていないのに」


 社長が首を捻る。


「分からんな」


「友人が言うには、選ばされた状態から、選んだ状態に変えるだけでいいそうなんです。それによって自分の決断を正当化するために、人は考え、行動すると」

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