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第5話



「林!撃たんか!」


「っ!は、はい!」




人間大の火の玉がいきなり飛んでいって指示通りに動ける人間が果たしてどれほどいるのか。


ともあれ攻撃しなければこちらが殺されてしまう世界なのだ。四の五の言わずに指示に従うしかない。



未だ激しく燃え上がる炎の中で、声にならない叫びを上げながら転がり回る化け物へ標準を合わせる。


動きが僅かに止まった瞬間に発射!


軽快な音と共に短くも殺傷能力の高い矢が連続して襲う。


工藤による強烈な一撃に、激しい炎が襲い、弱った所へダメ押しとばかりに的確に矢が傷を抉っていく。


それでも化け物は身を捩りながらも押し留まっていた。


不意に、工藤の頭にある懸念が過ぎる。




(·····なぜ、下がらない。これ程の傷を負えば普通は下がる。この森近辺の肉食害獣は一定の傷を負えば引き下がるはず、新種ゆえか?それとも、まさか──)




危険指数を測る上で幾つかの項目を点数化して、それらを足していくのだが、〔生態2〕の項目は脅威となる多さ順から5点から1点へと評価する。


5点・種、4点・群、3点・族、2点・番、1点・個、といった具合に点数を付ける訳だが、工藤はこの新種を暫定で1点の個体として1匹と判断したのだ。


これが実は2点の(つがい)でどこかに雄なり雌なりのパートナーがいるということならば、話は変わる。



(こいつが囮なら、この行動にも納得がいく)



【スカウトボット】は破壊されたがまだ上空には【スカイアイ】が待機している。その【スカイアイ】がこちらに情報を流して来ないなら、こちらの杞憂か擬態持ちの厄介な敵という事になる。


工藤は軍事用デバイスにのみ備わっている後方視認カメラも起動させてさらなる警戒に入った。


ボーガンを撃ち切った林が剣を構えながら包囲網に加わるのを確認しつつ、次の攻撃パターンをどうすべきか判断に迷っている時だった。




「教官、俺の気のせいかもしれませんが、地面、揺れてません?」


「っ!まさか!」




工藤が驚くのと同時に、5人が新種の害獣に向き合っている中、後方で土の噴煙を撒き散らしながら巨大な害獣が襲い掛かって来た。


思わず振り向き驚愕する4人。


その瞬間を逃さず手負いの害獣は佐藤へと飛び掛った。



「っひ」



短い悲鳴の元へ醜悪な乱杭歯が迫る。


外部からはその顔色を拝むことは出来ないが、絶望に染まった表情を浮かべていた。


【可素リアクター】の解放で知覚が鋭敏になっているせいなのか、佐藤にはスローモーションで今から自分が食べられるのではないかという恐ろしいイメージしか湧いてこなかった。


徐々に迫る生命の危機。


腰が引けて後ろに倒れそうになり、害獣に対して咄嗟に両手で顔をガードした。




(イヤっ!こんなトコで死にたくないよ!)



心の中で叫んだ。


その声が届いたのか──



「死にさらせぇ!」



気合い一閃、右下から左上へ逆袈裟に剣が唸りを上げて走った。



家康だけはこの害獣を見続けていたのだ。


言葉には出来ない違和感を感じてずっと見ていたのだった、教官・工藤の強烈な攻撃を二度も喰らい撤退しないこの害獣を異様に感じ、それ以上を推測する事は出来ずとも己の直感を信じて。



そして、足元から感じた僅かな振動を指揮官に伝え、直後に起きた背後で巻き起こる衝撃にも気を取られず、ただただ害獣を見続けていてその時が訪れたのである。



家康の放った斬撃は、鋭さの欠片も無かったが、【EAS】と【可素リアクター】によってとんでもない威力を発揮した。



一抱えもある巨大な首を半分、断ち切ったのだ。




工藤のつけた傷口に、刃の半ばから恐ろしい勢いでぶつけ、そこから体の回転と腕の遠心力を持ちいた思い切りのいい振り抜きが出来た為に生まれた結果である。


思わぬ結果に残心のまま家康は思う。




(おーふ、マジで死にさらしたよ)




会心の手応えに、大金星の成果。


これ以上ない自分の出来る範囲での結果に家康は逆に冷静になれた、出来過ぎだと。


それがフラグとなったのか、ヘルメットの中で聞きたくない声が聞こえた。



「猪狩ぃ!伏せろぉお!」



教官・工藤の焦りようにヤバいと思った時には、家康の身体は浮いていた。


背中からとんでもない衝撃が来たと思った次には、今までの人生で感じたこともない痛みを感じた、まるで()()()()()()()()みたいに。



「猪狩ぃ!」

「ちょ、ま」

「っ!」


「い、いやぁー!」



《ブォオオオオオオオオオオ!》





人の叫びは悲痛さと拒絶を、獣の叫びには勇猛さと歓喜が。


首を高く上げて掲げる角の先には()()()()家康の姿があった。


背面から襲われたせいで腹部であった場所を頂点に血を流しながら身体を海老反るように下へ垂れ下がってしまっている。


教官たる工藤以外は皆呆然とする他ない。


ただの研修では有り得ない悲惨な光景、それでも生き抜く為には決断が必要で──




「米島!林!佐藤の腰が抜けている!二人で引っ張って下がれ!俺が()()()()()!行けぇ!」



食い止める、工藤はそうとしか言えなかった。





少し前、家康の言葉でいち早く地下からの接敵に気付き、新手が姿を表した瞬間には斬撃を飛ばしはしなかったものの、今度こそ一撃で仕留めん!と新手の首筋へと直接切り付けたのである。


ところが、それを角で()()いなされたのだ。



(コイツ!()が違う!)



思わず害獣の、この個体の生命体としての強靭さが己を超えていることを認めてしまった。


どうする、どうやってこの場を凌ぐ?と思考を巡らせた時に聞こえたのが佐藤の心拍異常音と家康の雄叫びだったのである。


幸いにも新手の害獣には声はヘルメットで遮られて聞こえはしなかった。


しかし、害獣の断末魔までは遮ることは出来ない。


叫びによって目を向けた先に写った光景を見た新手の害獣の、あまりの速さに工藤は伏せろ!としか言えなかった。





結果、家康は佐藤の危機を防げたかもしれないが、自分の命を守る事が出来なかったのだ。


そして、それは教官がすべき事でもある。


決して奢っていた訳では無い。それでも最善の方法を取れなかったのかもしれない。探索に正解はない、戦闘にも正解はない。


害獣への観察も足りなかったと言えよう。


サイとトカゲを足したような化け物と見れば思ってしまう最大の類似点が勇壮で頑健そうな角と灰色の硬質そうな皮膚にあったのだ。


もっと警戒しておけば──



しかし工藤の苦難は終わらない。






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