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第4話



(は、はははは、化け、化け物と、俺、リアルガチで戦ってるぜ!)



笑っていた。


家康は全矢を打ち切る前に心の底から湧き上がる高揚感に、思わず笑ってしまっていた。


しかし、片膝立ちの姿勢で化け物を狙う手元からはカチッカチッと虚しい音が。


ん?と怪訝な顔をしたのも束の間、打ち切った直後の隙が狙われた。


攻撃を受けていた化け物は急所を守るべく小さくなり大人しくしていたのだが、矢の襲来が途切れ僅かな間を以てから、醜悪な乱杭歯を剥き出しに猛然と突っ込んで来たのだ!




「え!ちょ、うわ!」


「猪狩!【EAS】と【可素リアクター】を全開だ!」


「っ了解!」



慌てふためく家康の前に教官・工藤がスっと前に出る。


その手には大太刀。


軍事用ウェポンデバイスでもなく、純然たる刀である。




(え、今、()()()()出したんだ?)



柄の部分を見る限り古典的な日本刀にしか目えない。


それがいきなり目の前に現れば、誰でも疑問に思うだろう。


とはいえ、一瞬の疑問が頭に過ぎっている間にも化け物は加速しながら近付いて来る。


家康はボーガンを背面のウェポンホルスターに収めながら音声認識で最新鋭のスーツの能力を解き放つ。



「【EASフルバースト】!【可素リアクター100パーセント稼働】!」


〘音声認識しました。作動します〙



装着者の音声を認識してヘルメット付属の独立AIが返答する。


その直後、ピーという短い電子音と共に身体中を覆っていたタイツ部分が僅かに膨らみ締め付けられると同時に体が軽くなったような感覚に包まれた。


変化はそれだけに留まらない。


両肩と胸部、両手の甲、首の後ろ、太腿の外側、そして踵。


計10ヶ所に装着されていた【可素リアクター】の保護シャッターが軽やかな音と共に開く。


そこには、明るいオレンジ色混じりの黄金色に輝く【陽明石】の姿があった。


【可素】を吸収する生命体でない無機物質、それこそが【陽明石】なのである。


今、音声認識によって稼働し始めた【可素リアクター】が静かに空気を震わせながらその能力を解き放つ。



「うぉ、これマジかよ!?」



家康が思わず驚いてしまったのも無理はないだろう。


リアクターの能力が100パーセント解放されれば、今まで貯めていた【可素】が全身に送られ得も言われぬ体験をする事になるのだ。


それは、体幹のみに留まらず内から来る変化の性質上、脳にも及ぶこととなる。


知覚していた物がより鮮明に、より緩やかに感じられていく。


決して世界が遅くなった訳では無いのだが、家康にはそのようにしか思えないはずだ。



しかもこの状態は、リアクターが外部から減った分だけ吸収しようとするのだから、過剰に消費しない限りはなくなる事はないのである。



兎に角、前に立った工藤の大太刀の刃が届く範囲まで後2メートル近くまで化け物が迫り、次の跳躍へと力を溜めた瞬間──



「ふん!」



きらりと、輝く光の筋が美しい弧を描いた。


そして、響くは皮と肉が切り裂かれ、血飛沫が噴き出す残酷な音色、化け物の咆哮。



「は?え?」



腰に装備していた剣の柄に手を掛け後詰をせんと、構えていた家康には理解出来なかった。


全能感の中でどんな攻撃も見切れるだろうと思っていたのに、まるで目えない剣筋、届くはずのない距離を切り裂いた現実。



(これが、元防衛軍の、第1課の実力·····)



「うっわ!スゲぇー」


「·····激ヤバ」


「·····」



家康以外の3人の感嘆の声がヘルメットの中で聞こえた。声にならない声というのもある。



「まだ死んじゃいないぞ!警戒しろ!」

(くそ、アレで殺れねーのか!コイツ硬すぎる!)



工藤は内心焦っていた。


この研修生向けの森で、というよりも第二地球に来て開拓局が10年近く時間を掛けて蓄積して来たアーカイブにもない新発見の敵だったのである。


普通であれば情報を多く得る為に耐久戦を選択し、着実に危険を冒さず戦闘に臨むのだが後ろには研修生の緊張している姿が。


だからこそ、このイレギュラーな状況で生存する事を優先に考えた結果、一撃で仕留めようと軍事用デバイスの【可素リアクター】を90パーセントまで使用した上で、体内に馴染んで保有していた【可素】も上乗せして斬撃を()()()()



にも関わらず、まだ反撃する様子見せ、怒りを瞳に宿して、こちらを睨んでいる。


軍事用の12のリアクターが減った分の【可素】を掻き集めているが、果たしてどれほど役に立つのか。


既にヘルメットの音声認識で救援は呼んでいる。


しかし、()()()()()()人類には空を飛んで救援には来れない。見逃されるのはドローン程度の大きさまで。



(·····最短で30分か、やはりこのメンバーでやり過ごすしかないのか)



どうやりくりするか、手札は研修生3人に【可素】を8割使ってしまったベテラン。


自分をも客観的に駒として見ながら、最悪の想定を含めたプランを脳内で複数組み立てている中、声が掛かる。




「教官、指示をお願いします」




林がボーガンを油断なく構えながら静かに工藤に問う。


チラと、バイザー内に明示される3人の心拍状態を見て決心が固まった。



「聞け。コイツは新種だ。概算だが推定危険指数8.5、草狼の群れと同等だろう。倒せない害獣ではない。俺の指示に従えば勝てる」


「「「はい!」」」


「俺がもう一度攻撃する。直後に林は射撃、猪狩・米島・佐藤は三方から攻めろ。しかし最優先は自分の命だという事を忘れるな!」


「「「はい!」」」


「よし、俺の攻撃に続け!【可素変換:豪火球】!」


「「「は?」」」




聞いてはいた。


【可素】とは生命体の意思に反応すると。


つまり、それって魔法なんじゃね?というのが一般人の認識なのだ。


実際、機密事項ではない探索者の普段の探索風景はインターネット上で公開されているし、その戦闘風景を見ればパワードスーツを着た魔法使いが銃と剣を駆使して縦横無尽に暴れ回っているようにしか見えない。


公開してもいい見栄えの良い場面しか普段見ることがないせいか、地味さと残酷さはあまり伝わらないのだ。


今回それを身に染みて理解していた所でこの魔法現象である。




(つーか、豪火球て。忍術じゃね?)



元防衛軍出身、教官・工藤明、リアル忍者容疑が掛かる。





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