驚きの連続 Ⅰ
【巧哉Side】
とりあえず。
逃げた。
それはもう全速力で。
寮を飛び出した。
どこに行こうか考えて寮の裏に駆け込んだ。
バレづらいだろ。
「ハァっ……ビックリ…した…ハァ…ん…」
中学の時は運動部でそれなりに体力もあったけど引退してから時間たってるしちょっと走っただけでも息がきれる。
しかも、さっき男に興奮されて驚いたし。
いろんな意味で心臓がやばい。
少し落ち着いて呼吸も安定した頃に、さっきまで自分が呼吸する音に紛れて気づかなかった声が聞こえてきた。
壁の向こうから…?
俺はまるでどこかのスパイみたいに背中を壁につけて顔だけ向こうを覗き込んだ。
「ん、ひな、たく……ここじゃ、だめだっ、て ぇ…」
「香野、可愛いなぁ。
ここ、きもちー?」
うそーん。
まさかの致してる。
向こうは気づいてないみたいだけど……!?
……いや、気づいてるな。
ヤラれてる男はいっぱいいっぱいになって気づいてないけど、してる方の男は俺に気づいてる。
だって今、目があった!
ニヤってされた!!
俺が見てるの気づいて続けてるあたりヤベェコイツーーー!!!
なんで俺はそれに気を取られてたんだろ。
「興奮すんの?」
「えっ!??」
後ろから急に耳元で囁かれた声にまた驚く。
って、三阪じゃんっ………!
え、なんでここいるの。
逃げ切れたはずじゃなかったっけ、俺。
「なっんで三阪がいるんだよ……」
あ、まだ勃ってるコイツ……ヒェェエエエ。
「ん?
受付の人にどっち行ったか聞いたもん。
門の外出るときは受付の人に言わなきゃいけな
いし、それなら寮の裏側にでもいるかな、と」
見抜かれちゃってんじゃん、全部。
見つかったなら俺はここから離れたい。
まだ、一人にしか気づかれてないっぽいし。
「……部屋戻る」
「じゃあ俺も戻ろうかな」
「手、出さないでくれよ!頼むから!」
まだ、三阪が恐ろしかったけど部屋に帰った。
いつまでも男が喘いでる姿見たくないし。
部屋の中にも個室はある。
俺は荷物を自分の個室に持っていった。
裏から帰るときに三阪から個室は入って右側が俺のだと聞いていたので迷わない。
個室には鍵がついていたので迷わず掛けさせてもらう。
入ってきそうじゃん、アイツ。
本当の一人になってようやく落ち着いたのか、どっと疲れが出た。
備え付けのベッドに倒れ込む。
あー、このまま寝れそ……。
「もう寝んの?」
………ん?
なんで声が聞こえるわけ?
ゆっくりと目を開ける。
「鍵締めて安心してたの?」
み、三阪が笑顔で俺を見ている。
なんで入ってきてんの、とかなんで俺の気持ち分かんの、とか言いたいことたくさんあったけど…
「あ」
俺はまず布団にくるまった。
こうすれば手は出せないだろ、アイツも!
三阪は布団から引っ剥がそうとしてくる。
力つぇええええ。
俺も必死で布団を掴んで離さない。
「そろそろ出てきてよっ………」
「い、やだね……!!」
そんな簡単に出てたまるもんか。
男同士のアレやコレは詳しくないけど、俺のケツが結構ピンチなのは分かっている。
俺よ、守るんだ。
俺のケツを。
そうこうしてたら。
ぴーーーんぽーーーーん
部屋のインターホンが鳴った。
三阪の手が一瞬緩まったのを布団越しに感じた俺はチャンスだと思って布団から抜け出し個室から出て部屋のドアを開けた。
待っていたのは。
「ぇ………」
「あ、さっきのイケメンくん」
「ん?どゆこと、日向くん」
さっきのうっふんあっはんやってた奴らじゃねぇかぁぁああああ!!!!
「な、なんで……」
なんとか出した声は驚きのあまり震えている。
人間ってこんな短時間にこんなに驚けるモンだっけ。
「あー、いや、俺達君らの隣の部屋だからさ、挨拶しようかと思って」
「ねぇ、日向くんどーゆー意味、今の」
「後で教えるから、ね?」
えーー。
嫌だー。
「ふーん、とりあえず上がれば?」
やっと個室から出てきた三阪がそんなことを言ったのでいちゃいちゃカップルは部屋に上がってきた。
「水田日向です、ヨロシクねー」
「神島香野。呼び捨てでいーよ」
みずたひなたとかしまこうや、ねぇ。
さっき俺に気づいたやつが水田か。
「……原田巧哉。俺も別に呼び捨てでいい」
「三阪孝介。俺も気にしないから」
適当に自己紹介も終わり、どこの中学出身だとか、日向と香野は生まれたときから一緒にいた幼馴染だとかそういう話を少しだけして二人は帰っていった。
「じゃあね、巧哉、孝介!」
ニコニコしてて明るい日向はちょっと眠たそうにした香野を引っ張って帰っていった。
二人が帰ってしばらくしてから見られてたのかよぉおおおおという香野の叫びが聞こえてきた。
ごめん、香野。
「ねぇ、俺のことは下の名前で呼んでくんないの?」
「お前は無理。
俺にとってお前は警戒心を抱くべきものだと思 ってるやつだから」
親しくする気はねぇよ。
「ふーん、別にいいけどね。
それはそれで興奮する」
なんか言ってるこの人。
怖い。
「…ホントに、手を出すなよ三阪………」
「俺好みの、綺麗な顔でそう言われてもなぁ」
「顔だけかいっ!?」
確かに、中学の時から綺麗だのカッコいいだの言われたけど。
別に自慢するつもりとかはない。
ただ言われるのは少し…いやかなり嬉しいけど。
でも、三阪に言われると怖いしかないな。
「いや?
猫みたいに警戒心丸出しだったりするところも 可愛くて好きだけど?」
「もう、怖いしかねぇよ」
まだ会って少ししかたってないのによくそんなに俺のこと好きになるもんだ。
分かんねぇな。
「てか、なんでさっき俺の個室の鍵開けて中入っ
てこられたんだよ」
わかんないと言えば。
これだ。
さっきは聞けてなかったし聞いとこう。
「いや、個室の鍵外からもかけられるようになっ
てるから。
まだ、渡してなかったからな、個室の鍵。
それ使ったんだよ」
俺は三阪の手に乗っかった鍵をすごい勢いで奪って個室に戻り鍵を締めた。
ホントに疲れてたし、晩飯食うまで寝た。
三阪が晩飯食いに行くぞって言わなかったらまだ寝てたかもな。